【インクルーシブ教育最前線】「グレー」、親の葛藤 ~支援級に就学~

覚悟のための手帳

 「拓己君、ちょっと気になるところが」。幼稚園に入ってすぐ、指摘された。ベテランの先生が言葉を選びながら「気になるところ」を、理彩さんに伝えた。

 発達障害は、幼児期には見逃されやすいという。落ち着きのなさやこだわりの強さは多かれ少なかれ誰もが持っている。子どもにとっては集団生活に初めて入る体験でもある。

 親が気付かない場合、誰かが指摘しなければ見過ごされたまま、その子は年齢を重ねる。子どもを多く見ている幼稚園の教員や保育所の保育士が気付く場合が多い。が、気付いていない親に不用意に指摘するとトラブルになりかねない。

 「元気なのが当たり前なのに、うちの子の場合は、不安が強く、おどおどしているから、その年齢の子としてはおかしい、とすぐ分かっちゃう。私も心の準備はできていました。指摘されて、検査を受けてみますと言ったら、幼稚園の先生も安心した様子でした」

 地域の療育センターに行った。その時の診断は「アスペルガーの傾向がある」。いわゆるグレーゾーンだ。医師ははっきりした診断を出すのを渋ったが、理彩さんは食い下がり「自閉症スペクトラム(アスペルガー)」の診断名を得た。

 スペクトラムとは連続体という意味だ。重度の知的障害から、全く知的な遅れがない子まで幅がある。拓己君の場合は後者だ。専門家らによると、自閉傾向にも大きな幅があり、連続体を形作る。一人一人の症状には明白な区分はない。

 自閉症は触覚や聴覚などの感覚過敏を伴う場合が多い。拓己君は公共施設にあるトイレのジェットタオルに強い拒否反応を示した。音が恐くて公共施設などのトイレに入れなかった。結果、多目的トイレを使うことになる。

 「どなたでもご自由にお使いください」と表示されている現在とは違い、身体障害者や赤ちゃんが使うものという考えが強かった。

 拓己君の障害は外見からは分からない。もう自分で歩ける拓己君が、ベビーカーと一緒に多目的トイレに並ぶのはためらわれた。他人の目が気になり、外出を控えるようになれば、母子は孤立し、追い詰められるケースもある。

 「障害があると証明する、(精神障害者保健福祉)手帳がどうしても欲しかったんです。親としての覚悟のために。福祉を受ける心積もりのために。いつまでもグレーだからと言って、気持ちがふらふらしていると、拓己の自己理解も進みません」

特集

コラム・連載

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ