「70歳まで雇用」を奨励する政府と「40〜50代リストラ」を加速させる企業【怒れるガバナンス】

 ◆黒字でもリストラ

 政府は、70歳までの雇用を奨励するが、管理職にもなれない人材を長く社内にとどめておくほど企業にはゆとりがないのが実態だ。多くの企業で、今までは非常時の制度と考えられていた早期退職制度が常態化している。

 最近の記事を拾っただけでも、大手メガバンクはもとより、NEC、セブン&アイ・ホールディングス、富士通など経営が順調と考えられている企業のリストラ計画が目立つ。経営が黒字で、早期退職に伴うコスト負担能力があるうちにリストラを敢行しておこうというのだ。

 どんな中高年社員がリストラされるのか。

 それは、まさに「ヒラ中高年」だ。すなわち、高い給料の割に仕事をしない、いわゆるコスパが悪い社員。

 続いて、ヒラではないが、役職者のくせして仕事をしない、仕事がない、いわゆる名ばかり管理職社員。

 そして、役員になれる見込みが100%ない社員。これって今、この記事を読んでいるあなたではないのか。

 「社長、会長は、いつまでも辞めないくせに、われわればかりを辞めさせるのか!」

 中高年社員の怒りの声が聞こえてくる。

 ◆ストレスで体が

 もし、あなたに怒るだけのエネルギーがあるなら、私の提案だが、これこそ、韓国のヒラ中高年を見習ってほしい。あなたを必要としない会社なら、さっさと割り増し退職金をもらって辞めちゃえ!

 そんなことをしたら家族を養えない、子どもが学校に行けないうんぬん。実際、その通りだろう。そのため、どんな目に遭わされようとも、会社にしがみつく方が得策だ。

 それも選択肢として間違っていない。しかし、私は、その選択をした結果、ストレスで体を悪くした人を多く知っている。

 かく言う私も、49歳で銀行の管理職のポストを捨てて、辞めた口だ。不安はあったが、定年までストレスを抱えたまま、銀行勤務を続けるより良かったと思っている。

 私の知り合いで、大手製薬会社を辞めた人がいる。製薬会社もグローバル化し、彼のポストが不要になったのだ。

 家族に退職を告げたら、妻、子どもが大いに嘆き、怒り、大変な愁嘆場を演じたという。しかし、涙も枯れた妻や子どもは、彼の選択を理解し、協力に転じた。

 今では薬局チェーンのコンサルタントとして活躍している。「背水の陣で営業して何とか客をつかまえました」と彼は言う。

 死ぬ気で頑張れば何とかなる、というほど単純ではないが、会社にいた際は埋もれていた能力が、辞めた途端に活性化するのも事実だ。

 ◆経営者の能力

 こんな実例を見ていると、企業も無理強いのリストラや活性化をするのではなく、中高年社員に独立を勧め、独立後の会社と請負契約でも結べばよいのではないかと思う。

 さて最後に電力王、福沢桃介のエピソードを紹介する。

 桃介は松永安左衛門(彼も電力王だ)からリストラの相談をされた。

 桃介は「リストラするなら優秀な社員から辞めさせなさい、駄目社員は大事にしなさい。その意図は、優秀な社員はすぐに転職先が見つかるし、泥舟の会社からはすぐに逃げ出す。しかし、駄目社員はどこにも転職できないから、温情をかけてくれた君のために家族総出で必死に働くだろう。それで会社はうまくいく」とアドバイスした。

 松永は、桃介のアドバイスに従わず、結局、会社をつぶしてしまったという。

 どんな組織にも、2対6対2の法則(勤勉な人が2割、普通の人が6割、怠け者が2割)があるらしい。ヒラ中高年を辞めさせて、優秀な社員ばかりにしたつもりが、結局、2対6対2の法則通り、駄目社員ができてしまうのだ。

 なぜ、駄目社員ができるのか。それは、リーダーがグローバル化した経済に対して明確な海図を示さないからではないか。明確な海図を示せば、社員たちは必死で目的地に向かって船をこぐだろう。

 今、中高年社員に「日本流サオジョン」が広がりつつあるのは、経営者の能力不足が露呈した結果ではないかと思う次第だ。

 【筆者紹介】

 江上 剛(えがみ・ごう) 早大政経学部卒、1977年旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。総会屋事件の際、広報部次長として混乱収拾に尽力。その後「非情銀行」で作家デビュー。近作に「人生に七味あり」(徳間書店)など。兵庫県出身。

 (時事通信社「金融財政ビジネス」より)

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