苦境をはね返すたび、深みを増したのが、クラブのモットーである「ミア・サン・ミア」の心得だ。バイエルン地方の方言で、直訳すると「われらはわれら」。唯一無二。他を寄せ付けない自信に満ちあふれる言葉だ。
このメンタリティーを、次代を担う若手へと継承する場である育成部門の練習場「FCバイエルン・ミュンヘン・カンプス」へと足を運んだ。
建物の入り口には生え抜きの筆頭格、元ドイツ代表FWトーマス・ミュラーの大きな写真と、彼の言葉が飾られている。
「ミア・サン・ミアとは絶対成功するんだという信念を曲げないこと。常に勝利を目指して最善を尽くし、逆境においても何度も立ち向かっていくことだ」
強化のための環境
近年、トップチームでは選手獲得の費用がかさんでいる。自前の選手がトップに定着したのは10年前にデビューしたダビド・アラバが最後。その悩ましい状況を打破すべく、17年にこの施設が新設された。
「古くから全チームが練習してきたゼーベナー通りは手狭になり、施設面でライプチヒやホッフェンハイムなどに大きな遅れとっていた。こちらへ来てからは各チームが存分にピッチを使える」と育成部門の広報担当、ディルク・ハウザー氏は胸を張る。
30ヘクタールの敷地内に2500人収容のスタジアムを含む8面のコートと、寮や食堂、室内練習場などを完備。東側には約3キロ離れたアリアンツ・アレーナを望む。U9(9歳以下)からU19(19歳以下)まで、国内外からスカウトされた200人余りの精鋭たちが、「目的地」である本拠地スタジアムを肉眼に捉えながら練習に励んでいる。
今シーズンの反撃は?
昨年11月からトップチームの指揮を執るハンジ・フリック監督が下部組織との連携を大切にしていることもあり、“カンプス”の士気は上がっている。
「喜ぶのはまだ早い」と関係者はくぎを刺すが、ここから新星も出現した。普段は主に2軍でプレーする18歳のストライカー、ヨシュア・ジルクゼーが、昨年12月にトップデビュー。シーズン前半戦のリーグ戦ラスト2試合で、計10分に満たない出場時間ながら、2得点を挙げた。その二つともが、終盤にチームを救う、まさに「ミア・サン・ミア」なゴールだった。
1月にバイエルンの精神そのものと言える存在、あの元守護神、オリバー・カーン氏がフロントとして復帰した。ふがいない前半戦からの反骨が実を結ぶか。バイエルンの逆襲はここからだ。
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吉泉 愛(よしいずみ・あい) ドイツ・ケルン在住スポーツライター。サッカーのLリーグ、なでしこリーグで15年間プレーし、2009年に渡独。11年から欧州各国でサッカーを中心にスポーツ全般を取材する傍ら、指導者としても現場に立つ。欧州サッカー連盟(UEFA)B級コーチライセンス保持。(2020年1月30日配信)
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