Q、中国が将来経済的、軍事的に米国をしのぐ存在になるとの見方は正しいのでしょうか。
高原氏 中国の経済成長率が下がっていくことは間違いありません。ある時点でたとえ米国を追い越したとしても、国内総生産(GDP)世界一の国家という地位がそれほど長く保てるとは思えません。成長のポテンシャルは米国の方が大きいのでは。高齢化の問題も中国と比べると厳しくないし、自然、そしてエネルギーは豊かで人材も豊富。ドルという基軸通貨も持っている。そう考えると米国人がなぜこんなに自信を無くしているのか、理解できません。
もう一つ、中国には政治体制の問題があります。中国人は皆、今の体制がいつまでも続かないことは分かっています。しかし、その変化のプロセスが混乱なく進むものなのかは分かりません。そして今回の新型肺炎騒動。中国のリスクは多種多様です。
Q、中国のナショナリズムは高揚し続けるのでしょうか。
高原氏 しばらくは富国強兵パラダイムにとらわれ続けるのでしょう。教育や報道を通した社会化の効果は大きいです。経済はもちろん、香港問題も台湾問題も何もかも米国が悪いと教えられている。
Q、日本では国民レベルでは日米同盟一本でいいのか、という声が出てきていると思いますが。
高原氏 日米同盟の維持自体が日本外交の目的ではありません。でも日本にとって当面何が一番いいかというと日米間の安全保障協力関係を維持することだろうというのが多くの国民の間の常識でしょう。だからといって中国との関係をないがしろにしていいかというと、そういうことではなく、地理的にも安全保障、経済上も、あらゆる理由から中国との関係の安定、発展が日本の国益にかなう。その事情も変わりません。
五百旗頭真先生が「日米同盟プラス日中協商」と常々言われていること、両方と仲良くすることが当面は日本の唯一の道ということでしょう。
Q、同盟は手段だとしても、同盟の維持はコストがかかります。果たして割が合うのでしょうか。
高原氏 対米外交が重要なことは言うまでもありません。米国と交渉する時の日本のテコは何なのか。やられっぱなし、言われっぱなしではなく、取引をする際のこちらのカードは何なのか。それは日本にあって米国には無いもの、例えば中国とのいい関係であるとか、あるいは東南アジアや中東などとのいい関係などが一つの材料になるのでしょう。首脳の関係も重要ですね。
例えば一帯一路とインド太平洋でも、米国もできれば中国と経済での協力をしていきたいでしょう。競争しながら協力するというわざ、これについて日本がリードするのもいいのではないか。安倍首相は「競争から協調へ」と言ったわけですが、実際は「競争も協調も」ということではないでしょうか。もちろん協調一辺倒でもない。
中国は長期的には米国をアジア周辺から追い出したい、日本など多くの国は、北朝鮮も含め米国に居てほしいのですから。そこは戦略目標が違います。そこで生じる摩擦を防ぎながら協力は進めていく。関係の脆弱(ぜいじゃく)性を管理抑制しながら、その強靱(きょうじん)性を一層強化していく。簡単ではありませんが、日本はそうした道をとるべきです。実は日本はそれをやってきたのですが、あまり言葉にできていないのが問題です。
高原明生(たかはら・あきお) 東京大学大学院教授、公共政策大学院院長。1981年東大法学部卒業。88年英国開発問題研究所博士課程修了、サセックス大学博士号取得。在香港日本国総領事館専門調査員、桜美林大学助教授、立教大学教授等を経て2005年より現職。著書にThe Politics of Wage Policy in Post-Revolutionary China、『開発主義の時代へ1972-2014』(共著)ほか論文多数。
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