【地球コラム】対中国で競争と協調の道探れ~識者に問う日中外交(3)~

「新文書」の前に過去の文書の検証を

 東京大学公共政策大学院院長の高原明生教授は、時事通信社のインタビューに応じ、日中関係などについて見解を明らかにした。この中で高原氏は、今春の習近平国家主席の国賓としての訪日を控え、日本の対中国姿勢について「正しいのは競争と協調だ」と述べ、安全保障面などでの必要な対応と経済面を中心とした協力関係の前進を両立させる道を探るべきだと指摘した。

 また、習主席が日本の対中好感度が改善しないことに対して「日本側に責任がある」と語ったとされることについて、「驚いた。日中関係の実情を理解しているのだろうか」として、中国のトップとして日中関係の現実を把握していないのではないかとの見方を示した。(聞き手は時事通信社解説委員 市川文隆)

◇ ◇ ◇

 Q、習近平主席の国賓来日について、どう思いますか。それまでの間に必要となることは何でしょうか。

 高原氏 日本にとって中国との関係の安定、発展が大きな国益であることは間違いないわけで、そのための首脳交流は重要です。今回、例えば東京以外にどこか1カ所ぐらい地方に行ってほしいと思いますが、それを調整する必要があります。中国側は安全の確保を気にするでしょう。

 Q、いわゆる「第5の文書」ですが、中国側がつくりたいと言っているようです。

 高原氏 そもそも「第5の政治文書」というのは中国の言い方で、日本側はもともとそういう言い方をしてこなかったと思います。新たな合意文書をつくるかどうかですが、まず、これまでの日中間の合意が守られているかどうか、検証するところから始めるべきです。その上で新しい文書を共同で発表した方がいいということならつくればいいのです。日本側は、特に必要だと感じているとは言えないのではないでしょうか。

 江沢民、胡錦濤両主席が来た時につくったからといって、今回必ずしもつくらなくてもいい。それよりも、中国の国家主席はもっと頻繁に日本に来て、もっと普通の関係をつくるべきです。欧州の首脳たちのように、密に交流するのがいいと思います。

 Q、1972年の日中共同声明、78年の日中平和友好条約中の「覇権条項」が現実に即しているか、という議論もあります。

 高原氏 「覇権」という言葉は国際条約になじまないそうです。中国の辞書によると覇権とは、「力によって自分の意思を相手に押し付けること」です。特にここ10年ほど、中国は東シナ海や南シナ海で実力行使して既成事実をつくっています。力に頼って現状変更をしようとしていると言われても仕方がないでしょう。日本としては「尖閣には船を出すな」と主張する上で、日中共同声明や平和友好条約を振り返るのは重要なことです。

 毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤、それぞれの指導者が合意文書という成果を残しているのだから、習時代にも何か残さなくてはと周囲が忖度(そんたく)していることが、文書をつくりたいという先方の意向の背景にあるのでしょう。

 Q、既に「第5の文書」作成が事務方同士で始まっているとみられています。

 高原氏 まあ、日本側にすれば内容次第ではないでしょうか。絶対に駄目だという理由もありません。

 Q、1972年に共同声明をつくった頃とは国際情勢が大きく変化し、当時は米中の急接近に日本が焦っていたのに対し、現在は米中が激しく対立しています。

 高原氏 冷戦時代が終わり全く新しい情勢の中で日本と中国が何をしていくのか、そういう意味で合意文書には意義があります。胡錦濤時代には中国が急速に力をつけてきた。そういう意味では新しい時代に入ったのです。新たな文書で日中関係の方向性を確認する意義がありました。今はどうか、そういう文書をつくる意義があるかどうか、ということです。

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