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香港の「高度な自治」縮小へ~共産党、締め付け強化の方針決定~(下)

「外部勢力」の影響排除

 香港基本法43条は、長官は中央政府に責任を負うと規定しており、(5)はそれに関連する制度の整備を指す。「高度な自治」という建前があるので、中央が日常的に長官を指揮することは考えにくいが、長官から中央への報告や中央から長官への指示を増やすことを想定しているとみられる。

 中央政府は今年2月、香港政府に対し、「香港民族党」の活動禁止に支持を表明した上で、この問題に関して報告を求める異例の「公式書簡」を送った。こうしたケースが今後増加し、制度化されていく可能性が高い。

 (6)は、12年に香港政府が導入を断念した「国民教育」の復活だ。多くの香港人、特に若者たちが日米欧の先進諸国に親近感を持つ一方で心理的に「中国」と距離を置きたがるのは、中国の政治制度や歴史・文化がいかに素晴らしいかをこれまでの教育が十分に教えてこなかったからとの認識を前提としている。「香港人も中国人なのだから、中国人らしく振る舞え」「経済規模が世界2位になった偉大な祖国を誇りに思え」ということだろう。

 (7)の「外部勢力」は主に米国を意味する。中国側は、香港で起きる大規模な街頭運動の背後には米国の反中勢力がいると思い込んでおり、中国の一部である香港が反中・反共基地になることを恐れている。(4)の立法が実現すれば、香港政府は「外部勢力」との結託を理由に反政府運動に対する規制を強化できる。

 香港政府はこれまで、中央からの指示または圧力を受けて、国家安全条例制定、国民教育導入、民主派を排除する長官「普通選挙」導入、中国公安当局の香港介入を可能にする逃亡犯条例改正を試みて、ことごとく失敗した。さらに、デモ取り締まりのため、英領時代から悪法の典型として知られた超法規的な緊急状況規則条例(緊急条例)まで持ち出して、大きな反発を招いた。いずれも香港人の政治意識や感情を無視した強硬路線の結果なのだが、4中総会の「決定」はこの路線を強化するもので、火に油を注ぐことになる可能性が高い。

 中国国務院(内閣)香港・マカオ事務弁公室の張暁明主任(閣僚級)も11月9日、「決定」を補足する論文を発表し、23条立法や「国民教育」の必要性を明確に指摘。特別行政区に関して、中央は基本法に明記された外交・国防などの権限以外に「制度創設権」「(長官人事など)政府の組織権」「高度な自治に対する監督権」「長官に対する指令権」を持っており、これらの制度化が必要だと主張した。

対応能力欠く習政権

 香港の政治勢力は普通、民主派対親中派という構図で語られることが多い。ただ、厳密に言えば、雨傘運動をきっかけに民主派から分離する形で本土・自決派(本土派と自決派)と呼ばれる新興反中勢力が台頭。この勢力は「一つの中国」に反対もしくは懐疑的という点で、「一つの中国」の枠内で民主化を目指す伝統的な民主派と大きく異なる。

 また、民主派は基本的に非暴力主義の対話路線だが、本土・自決派(特に本土派)は警官隊との衝突も辞さない街頭行動を重視する。いわば「香港民族主義者」である本土派は中国ではなく香港を自分たちの「本土」と見なして、組織によっては香港独立を主張。民族主義というより民主主義の徹底を追求する自決派は香港の「民主自決」を唱える。

 したがって、中国側が今やるべきなのは、左派と財界から成る親中派を団結させると同時に、非親中派をなるべく分断して相対的に穏健な民主派を引き寄せることだが、習政権がやっていることは全く逆だ。

 習政権が擁立した親中派の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は過度に強硬なため、本来反りが合わない民主派と本土・自決派が共闘する状況を自らつくり出してしまった。

 なお、流ちょうな日本語を話すことから日本で有名になった香港の政治活動家、周庭(アグネス・チョウ)氏は日本メディアで「民主の女神」と呼ばれることがあるが、実際には彼女は上記の区分で言うと、民主派ではなく自決派に属する。雨傘運動当時は政治団体「学民思潮」の主要メンバー(運動の途中まで広報担当)だったことから、「学民の女神」として知られた。その政治的同志が雨傘運動のリーダーとなった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏である。

 また、習政権と林鄭氏は親中派をまとめることすらできない。逃亡犯条例改正のように、香港の国際金融センターとしての地位と機能の前提である法治を揺るがす施策は、親中派の財界勢力を不安にさせた。香港財界人の筆頭格で親中派の最有力人物である李嘉誠氏は若者の抗議活動に同情的な発言をしたため、今や中国公式メディアの批判の対象になっている。

 中国共産党はもともと、同党以外の政治勢力を取り込む統一戦線にたけていた。例えば、胡錦濤政権は10年の香港立法会(議会)選挙制度改革をめぐる駆け引きで民主派の分断に成功。この時の制度改革案は立法会で穏健民主派の賛成を得て、可決・成立している。

 これに対し、習政権は統一戦線が下手というより、そもそも人に上から命令したり脅したりするだけで、統一戦線の戦術を駆使して相手を引き寄せようという気はさらさらないようだ。こうした態度は、個人独裁と大国主義を好む習氏個人の考えを反映したものであろう。

 政治的自由を長年享受し、経済発展や法治の水準が先進国並みに高い香港の人々に対し、経済の発展段階がまだ中進国レベルで独裁体制下にある中国流の考えを押し付けるのは無理がある。習政権が強硬一点張りで4中総会の「決定」を実行していけば、香港は表面的な「中国化」とは裏腹に精神面の中国離れがさらに進み、その統治はますます困難を増していくと思われる。

(2019年11月12日配信/解説委員・西村哲也)

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