中国共産党は今年の最重要会議である中央委員会総会で、一国二制度を適用されている香港特別行政区の「高度な自治」を事実上縮小する方針を打ち出した。中央委は、中国側の香港に対する「全面的統治権」行使を拡大する方針を決定。デモを続ける香港の反対勢力への締め付けを強化するとともに、習近平国家主席(党総書記)率いる中国指導部の意向を香港政治により強く反映させる仕組みをつくり上げる狙いがあるとみられる。
中央の「全面的統治権」強調
中国共産党は10月28日から31日にかけて、第19期中央委第4回総会(4中総会)を開き、最終日に「中国の特色ある社会主義制度の堅持と改善、国家統治体系と統治能力の現代化推進における若干の重大な問題に関する決定」を採択した。
「決定」は党中央委の採択文書としては珍しく、香港などの一国二制度について詳しく言及し、「『一国』を必ず堅持することは『二制度』の前提・基礎であり、『二制度』は『一国』に従属し、そこから派生するものであって、『一国』の中に統一される」と主張。さらに「『一国二制度』のデッドライン(許容限界線)に挑戦する行為はどんなものであっても絶対に許容しないし、国家を分裂させる行為はどんなものであっても絶対に許容しない」とした上で、以下の方針を示した。
香港とマカオの両特別行政区を対象としているが、マカオは反対勢力がほぼ皆無なので、事実上は専ら香港が対象だ。なお、ここで言う「中央」とは、党中央の指導下にある中央政府や全国人民代表大会(全人代=国会)などの中央国家機関を指す。
(1)愛国者を主体とする「香港人による香港統治」「マカオ人によるマカオ統治」を堅持する。
(2)中央が(中国)憲法と(香港・マカオ)基本法に沿って特別行政区に対して全面的統治権を行使する制度を整備する。
(3)中央の特別行政区行政長官・主要当局者の任免制度とメカニズム、(基本法で規定された)全人代常務委の基本法解釈制度を改善し、憲法と基本法が中央に与えた各種の権力を法律に沿って行使する。
(4)特別行政区で国家の安全を守る法律制度と執行メカニズムを構築、整備する。
(5)行政長官が中央政府に責任を負う制度を整備する。
(6)香港・マカオ社会、特に公職者と青少年の憲法・基本法教育、国情教育、中国史・中華文化教育を強化し、香港・マカオ同胞の国家意識と愛国精神を強める。
(7)外部勢力が香港・マカオの問題に干渉し、分裂・転覆・浸透・破壊活動を行うのを断固として防ぎ、抑え込む。
政治活動規制の立法へ
(1)の「愛国者」は親中派を指す。つまり、非親中派(民主派など)が長官になったり、立法会の過半数を非親中派が占めたりすることを認めない方針は不変で、習政権1期目だった2014年の雨傘運動(道路占拠運動)の時と同様、いわゆる「真の普通選挙」を導入する気はないということだ。
(2)の「中央の特別行政区に対する全面的統治権」は14年、中国政府が香港白書で初めて提起した概念で、基本法には書かれていない。これが法律の上位にある党中央の重要文書に明記されたことで、一国二制度の枠組みは基本法を改正しないまま、一国を強め二制度を弱める形で実質的に修正されたと言ってよい。
(1)と(2)の基本方針に沿って、取り組むべき課題(3)~(7)が示された。
(3)は、中央が香港に統治権を振るいやすくするため、長官人事に対する中央の影響力や基本法解釈の権限を持つ全人代常務委の香港に対する司法介入を拡大するということであろう。
筆者は数年前に香港で、香港を担当する中国当局者が「香港行政長官は中央による任命制にすべきだった」と言うのを聞いたことがある。もちろん、これは非現実的だが、香港各界を代表して長官を選ぶ選挙委員会(1200人)の構成を変えて、中央の指示が確実に実行されるようにすることはあり得る。
選挙委員はこれまでも大半が親中派だったが、委員の選出方法を変更(改悪)して、民主派を排除したり、親中派の中でも必ずしも習政権に従わない財界系の委員を減らして忠実な左派政党・団体系の委員を増やしたりすることができれば、中央の「全面的統治権」はより行使しやすくなる。
(4)は明らかに、香港基本法23条に基づく「反逆」「国家分裂」「外国政治組織との連携」などの政治活動禁止を指す。董建華初代長官は03年、23条に従って国家安全条例を制定しようとしたが、民主派の「50万人デモ」と親中派の一部(財界系勢力)の造反で断念してレームダック(死に体)化し、05年に任期途中で退陣に追い込まれた。
一方、中央にとって優等生のマカオは09年、同種の立法を完了し、18年には「習主席の『総体的国家安全観』という重要思想を貫徹するため」と称して、国家安全保障委員会を設立した。(4)は要するに「香港はマカオに学べ」ということであろう。
また、香港基本法18条によると、香港で「動乱」などが起きて「緊急事態」が生じたと全人代常務委が認定すれば、中国の特定の法律を香港域内に適用することが可能になる。社会主義体制である中国の治安関係法規は反政府運動の弾圧には極めて有用だろうが、こうなると、一国二制度はもはや有名無実となる。
★関連記事★
特集
コラム・連載