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「ポスト習」は胡錦濤氏の息子?~異例の革命精神継承アピール~

 中国の前国家主席だった胡錦濤氏の息子で地方高官の胡海峰氏(46)に、革命精神の継承者としての派手な振る舞いが目立っている。中級幹部としては異例だが、その行動が習近平国家主席率いる中央指導部の許可を得ているのは確実。国内経済の不振や対米貿易戦争で苦境にある習派が胡海峰氏を「ポスト習」候補であるかのように扱い、胡錦濤派の歓心を買おうとしている可能性がある。

迷彩服のパフォーマンスも

 浙江省麗水市の共産党委員会書記(局長級)を務める胡海峰氏は5月29日、同市の党・政府代表団を率いて、上海市党委の李強書記(党政治局員)と会見した。隣接する浙江省と上海市は長江デルタ振興などで協力関係にあり、同省幹部が上海市首脳に会った前例がないわけではない。

 しかし、李氏が習派の有力者で、胡海峰氏はこのところ話題になる行動が多かったことから、両者の会見は特に関心を集めた。習派が胡錦濤氏への忖度(そんたく)から胡海峰氏を厚遇し、また、同氏の一連の行動にお墨付きを与えたという印象が強いからだ。

 胡海峰氏の動きが目立ち始めたのは第13期全国人民代表大会(全人代=国会)第2回会議(3月5~15日)の開催期間中。革命時代に浙江省で活動した粟裕(毛沢東時代の大将、軍総参謀長)と劉英(1942年、国民党当局に捕まり処刑)の子供を訪ね、麗水市が「浙西南(浙江省西南部)革命精神」を受け継いでいることを強調した。

 3月21日には、麗水に来訪した井崗山幹部学院の方華清教授と会見した。方教授は、35年に国民党当局によって処刑された革命家、方志敏の孫だ。

 さらに、麗水解放70周年記念日に当たる5月10日、胡海峰氏は迷彩服を着て、革命時代に共産党が輸送・連絡用に使った山中の秘密ルートを走破するパフォーマンスを演じた。

 社会主義体制下で革命精神を高く掲げるのは良いことながら、それは権力者としての正統性を誇示する行為でもあるので、政権トップ以外の個人がやり過ぎると、周囲から「身分不相応」「野心むき出し」などと言われかねず、政治的に危ない。

 胡海峰氏はもともと「太子党」(高級幹部子弟)の典型として有名な人物なので、なおさらだ。最近まで地味な言動に徹していた同氏が豹変したのも不自然で、このような行動をするよう上から何らかの示唆か指示を受けたと考えざるを得ない。

 ただ、昨年の改憲で国家主席の任期が廃止されたことから、習氏がいつ引退するは全く未定の状況であり、本当に胡海峰氏が次の最高指導者になる可能性があるのかどうかを論じるのは時期尚早だろう。

次官級へ昇進説

 習派主導の「反腐敗闘争」はまず江沢民元国家主席派を標的として、その後、共産主義青年団(共青団)出身者を中心とする胡錦濤派(共青団派=団派)にも矛先を向けた。今年に入ってからも、団派有力者の周強最高人民法院院長(最高裁長官)がある裁判への不正介入疑惑を理由に更迭され、習派に取って代わられるとのうわさが流れた。

 この裁判は陝西省の炭鉱開発権をめぐる争いで、治安機関を統括する党中央政法委などが1月、正式調査に乗り出したため、周氏はいよいよ失脚かと思われた。ところが、2月になると、調査チームが「告発者のでっち上げだった」と断定し、形勢は大逆転。周氏は粛清を免れた。

 ちょうどそのころから香港メディアなどで胡海峰氏の昇進説が伝えられた。転出先は福建省党委組織部長や陝西省西安市党委書記が候補とされた。次官級の中でも格が高いポストで、実現すれば、抜てき人事となる。

 報道は、中央指導部が胡海峰氏の昇進人事を検討し始めたことを示している可能性が大きい。同氏が大々的な革命精神継承者キャンペーンを開始したのは、これらの報道の直後だった。

 団派関連ではこのほか、胡錦濤氏の直系といわれる胡春華副首相(政治局員)が4月中旬、珍しく習氏の地方(重慶市)視察に同行。さらに、5月22日に新設が発表された国務院(内閣)就業工作指導小組の組長に起用され、雇用政策に関する権限を広げた。胡春華氏は習政権2期目に入って「ポスト習」候補の座から事実上滑り落ちたとみられ、目立たない存在となっていたが、最近は重用が目立つ。

 習氏は「1強」体制を構築し、自派を拡大したとはいえ、内外情勢が厳しい中で江派と団派の2大勢力と同時に対立を続けるのは苦しい。習氏としては、反腐敗で江派ほど大きな打撃を与えていない団派の協力を得て、政権の安定を保ちたいという考えではないかと思われる。

(2019年6月12日配信/外信部長・西村哲也)

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