―英国の公的機関の調査では、12年のロンドン五輪後に国民のスポーツへの取り組みにほとんど変化がなかったとのデータが出ています。若いうちからスポーツにいそしんで、元気に長寿というようにうまい循環ができればいいのですが。
ロンドンから8年たって、そこから学んで日本がそうならないようにしないといけません。自分たちの時代はそれでいいかもしれないが、子供や孫の時代になってそれでいいのか。英国の医学雑誌には「日本人は(年間)5万人が運動不足で死亡している」とのデータがあります。自らの努力で、人に迷惑を掛けない生き方ができるはずですが、どこかで甘えがあって何とかなるやという考えになる。セーフティネットはもちろん必要なのですが、もっと積極的に体を動かして健康を維持していくことが大事です。
高齢者の健康づくりについて、厚生労働省さんはとてもそこまで手が回らない状況です。本当のところ、スポーツ庁にやってもらいたいと言ってきています。厚労省さんと提携しながら少しずつやっていて少しずつ進んでいますが、そろそろスポーツ健康省とかスポーツ保健省とかの設立を考える時期に来ているのではないでしょうか。こういうことを言うと「勝手なこと言うな」と怒られるかもしれませんが、4年間やってきて私の一つの考えです。一つ大きな改革をしようとすると、他のいろんな歯車もいっしょに変えていかないと、なかなかシステムとして動きません。学校の部活動、地域型スポーツクラブ、地域の保健、介護とか福祉とかいろんな問題がパーッとはまればうまくいくのですが―。
―そういう意味ではスポーツが生活の中の文化としてまだ定着していないようですね。
スポーツが文化になって、しっかり根付いて日本の隅々まで行きわたるというような健康リテラシーは、私たちが言ってきたことです。体を動かすことが自然に身についていけばいいですね。スポーツは若者も高齢者もやるものです。世代間の交流、外国人との交流にもつながり、スポーツをやることが文化交流になります。スポーツの良さや得られるものを子供にも体験してもらいたい。ラグビーのワールドカップでもそうだったように、地方都市も含めてホストタウンとかになって外国人と触れ合う機会になりました。いい感じなので、この調子で(東京五輪やパラリンピックも)行けばいいですね。
◆鈴木大地氏プロフィル
1967年3月10日生まれ、千葉県習志野市出身。7歳から水泳を始め、17歳で出場した84年ロサンゼルス五輪背泳ぎの100メートルで11位、200メートルで16位。88年ソウル五輪100メートル背泳ぎで金メダル獲得。92年に引退。順天堂大学大学院を修了後、コロラド大学ボルダー校客員研究員などを経て、2006年順天堂大スポーツ健康学部准教授、13年に教授、日本水泳連盟会長。15年10月からスポーツ庁の初代長官に就任。17年から国際水泳連盟(FINA)理事。
新着
会員限定