東京五輪の陸上男子短距離をめぐり、日本陸連が提案した代表選考要項が波紋を広げている。100メートル、200メートルの代表選手は個人種目を原則一つに制限する案。過密日程による体への負担を考慮し、金メダルが期待される400メートルリレーにベストな布陣で臨むためだが、個人2種目で表彰台を目指すサニブラウン・ハキーム(米フロリダ大)らトップ選手は早速異論を唱えた。陸連が最終的にどのような結論を出すのか注目される。(時事通信運動部 青木貴紀)
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12月16日に東京都内で開かれた日本陸連の理事会。麻場一徳強化委員長は異例とも言える選考要項案について、六つの理由を挙げて説明した。
①男子400メートルリレーは金メダルを狙う状況にある。選手はリレーに注力してほしい。
②リレーのエントリー数が以前より1減の5人となった。(※リレーは跳躍や障害など他種目も含めて大会にエントリーしている選手であれば誰でも起用できる)
③100メートル代表選手は全員、必ずリレーのエントリー5人の中に入れなければならない。200メートルを兼ねて故障すれば、リレーに大きな影響が及ぶ。
④過去の世界選手権で2015年は高瀬慧(富士通)、17年はサニブラウンが短距離2種目に出場して負傷し、リレーで起用できなかった。
⑤今秋の世界選手権で米国は100メートル優勝のクリスチャン・コールマン、2位のジャスティン・ガトリンは200メートルには出場せず、リレーで優勝。一方、短距離2種目で入賞した2人を擁したカナダが、リレーは予選で敗退した。
⑥五輪は日程が過密。
麻場強化委員長は理事会後、国立競技場のトラックが高反発で硬いことから、「どんな強靱(きょうじん)な選手でも3種目を走り切るのは厳しい」との見立ても理由に加えた。
サニブラウン「リレーは二の次」
この方針に対し、100、200メートルの両方で五輪参加標準記録を突破しているサニブラウン、小池祐貴(住友電工)は疑問を投げかけた。両選手は来年の日本選手権で3位以内に入れば、代表入りの権利を得る。
世界陸上男子400メートルリレーでアジア新記録で銅メダルを獲得し、日の丸を背に喜ぶ(右から)サニブラウン・ハキーム、桐生祥秀、白石黄良々、多田修平=2019年10月5日、カタール・ドーハ【時事通信社】
サニブラウン「考え的に分からないというわけではないが、(3種目)できる選手はいると思うし、あくまで自分は個人の両種目でメダルを取るために日々練習している。リレーは正直、二の次。自分のやりたいことを最初にやらせてもらった方が、パフォーマンスもモチベーションも上がる。個人種目をしっかり頑張ったうえで、リレーも手を抜かずに頑張るスタンスでやっていければ」
小池「リレーに注力したいのなら考えられる対策かなとは思う。個人2種目を走るとリレーのパフォーマンスが落ちるからそうしたいというふうに(要項案を)読んだが、人によるのではないか。できる選手もいるし、一括でルールを決めるより、個々で相談していくのがいいと思う」
日本短距離陣は、個人種目でも決勝進出を狙える実力がある。エースのサニブラウンは100メートルで9秒97の日本記録を持ち、200メートルでは17年世界選手権で7位入賞の実績を誇る。選手にとっては個人のファイナリストや表彰台はリレーのメダルと同等か、それ以上の目標になっている。リレーのために個人の可能性を狭める方針は、強引な印象をぬぐえない。
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