ロンドンで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会談は、創立70周年を祝う記念会議にもかかわらず、最終日の共同記者会見をトランプ大統領がキャンセルして急きょ帰国する波乱の幕切れとなった。事件は、12月3日にバッキンガム宮殿で開かれたレセプションで起こった。遅刻したマクロン仏大統領にジョンソン英首相が理由を質問したところ、カナダのトルドー首相が「(トランプ氏が会談の)冒頭40分も記者会見をするからだ」とやゆし、「(トランプ氏の側近まであぜんとして)あごが床に着きそうなほどだった」と冗談を飛ばした。このとき隠し撮りされた会話が、カナダのメディアで報道されてしまった。その後、トランプ大統領は「トルドー氏には表裏がある」と批判しているから、怒りの矛先は明らかだ。(笹川平和財団上席研究員 渡部恒雄)
この騒動のせいで、NATOの指導者間の乖離(かいり)が浮き彫りになり、NATO自体の結束が問われることになった。そもそも、NATO首脳会議前の11月、マクロン氏が英誌エコノミストとのインタビューで、シリアでNATO加盟国トルコがクルド人武装勢力に対して軍事攻撃を行ったことや欧米間の協調の欠如などを理由に、NATOは「脳死」に至っていると批判したときから、すでに懸念は広がっていた。
しかし、ロンドンのNATO首脳会議の共同宣言には、われわれ日本人にとっても重要な決定が盛り込まれた。それは、「中国の影響力の増大と国際政策は、NATOの同盟として一緒に取り組む必要がある機会と挑戦の両方を示している」という、NATOとしての初めての中国への言及だ。
しかもNATOのストルテンベルグ事務総長は、首脳会議後の記者会見で、中国が米欧を射程に収めるミサイルを開発していることに言及し、「中国の台頭を認識しておくことが大事な一歩だ」とし、「同盟として共同で安全保障の問題などに取り組む必要があるという点で一致した」と発言した。そして「中国に軍縮協定への参加を促す方法を見つけなければならない」とも付け加えている。
現在、在日米軍基地とわが領土は、中国の精度の高い短・中距離ミサイルの射程内にあり、それに対する直接の抑止手段を日米ともに保有していない。憲法の縛りがある日本はともかく、米国も、これまでロシアと結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約に縛られ、対抗できる中距離ミサイルを開発してこなかった。しかし、米ロが中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱した本年からは、中国の中距離ミサイルへの抑止体制の構築と、今後中国をどのように核軍縮の枠組みに入れるかが重要な課題となった。
そこに欧州諸国もNATOの枠組みで問題を共有することになったことは、日本の安全保障にとっても意味のある首脳会談になったと考えられる。
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