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57歳山本博、なるか1次選考会突破 東京五輪へ飽くなき挑戦 アーチェリー

「スポーツって、すごい」

 もう15年以上も前になる。2004年アテネ五輪のアーチェリー男子個人で銀メダルを獲得した山本博は、当時41歳。「中年の星」と脚光を浴びた。しかし、その後の五輪3大会は代表を逃す。世代交代の波にのまれたかにも見えたが、五輪への飽くなき挑戦というモチベーションは失せることがなかった。10月31日に57歳になり、11月13日からの東京五輪代表1次選考会(東京・夢の島公園)に臨む。16人が争い、ふるいにかけられた8人が20年3月の2次選考会へ。4月の最終選考会を経て決まる代表3人までの道のりは険しい。その厳しさは五輪に5度出場した自身が十分に承知済みだ。熟年アーチャーはそれでも、可能性をにらみ目を輝かせている。(時事通信社・小松泰樹)

◇ ◇ ◇

 「スポーツって、すごいよね。こういうプレッシャーを感じる経験は、50代の半ばを過ぎた僕らの年齢ではなかなかできないでしょう」。安堵(あんど)感と満足感をにじませて、山本がそう話した。10月26日、静岡県掛川市のつま恋リゾート彩の郷で行われた全日本ターゲット選手権の予選ラウンドは、東京五輪への第1関門。これを辛くも突破した後の率直な感想だ。

 男子は96人が出場。予選通過となる上位32人に入った上で、予選で出した得点と、全日本アーチェリー連盟が公認している他の試合で各自が今年マークした最高得点を加えた合計点が、1次選考会に進める16人の選出基準となる。6月に行われた世界選手権の代表は予選を通れば順位に関係なくシードされ、12年ロンドン五輪銀メダルの古川高晴(近大職)と武藤弘樹(慶大)が該当した。そのため、結果的には残る「14枠」をめぐる争いとなった。ともあれ、予選ではまず、32位以内を死守しなければならない。それを逃せば東京五輪代表の望みが絶たれる。

のし掛かった重圧

 選手は70メートル先にある直径122センチの円形標的に矢を放つ。得点は中心に当たれば10点で、離れるごとに9点、8点…と少なくなる。1人72射(720点満点)。1エンド6射で、これを12エンド行う。各エンドを終えた選手は標的まで歩いて、刺さっている矢を確認し、抜いて戻る。これを粛々と繰り返す。百戦錬磨の山本だが、得点が伸び悩んだ。その1射が五輪につながるという重圧は、大ベテランにものし掛かった。「(精神的に)すごく疲れた。胃が痛くなる思いだった」。終盤、予選通過が微妙な情勢に。「東京五輪へのチャレンジは、これで終わるのか…」と、諦めの境地にもなりかけた。

土壇場の執念

 迎えた最終12エンドで、スイッチが入ったかのように10点を連発するなど58点。これで652点に。23位で予選を突破した。ボーダーラインとなったのは646点。山本はこの日、50点前後にとどまったエンドもあったから、最後の踏ん張りは大きかった。「(最終エンドは)久しぶりにゾーンに入った。追い詰められていた時、こういう点が出た。こうなると、まだやれるぞ、と思えるよね」。土壇場で執念見せた。

 一息ついたが、五輪1次選考会に進めるかどうかは、今年の自己ベスト得点との合計点にかかる。この数字で、事実上の残り14枠に入る必要がある。山本によれば、公認試合で677点をマーク。予選を通過した時点で、何とか滑り込めるのでは、との感触はつかめた。全日本連盟は予選通過選手がそれぞれ提示した今年のベスト得点を精査し、11月1日に資格を審査した上で1次選考会に出場する男女各16人を発表。山本も名を連ねた。

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