2018年日本最速スプリンターは、並々ならぬ覚悟を胸に米国へ飛び立った。陸上男子100メートルで日本歴代4位の10秒00を持つ山県亮太(27)=セイコー=。年末年始の一時帰国を挟むとはいえ、19年11月から20年3月末まで5カ月間にも及ぶ異例の長期合宿。病気などの影響でほとんど走れずに終えた今季からの巻き返しへ―。東京五輪を目前に控え、再起に向けて異国の地で汗を流している。(時事通信運動部・青木貴紀)
体重5キロ減
2018年シーズンは、日本の「エース」として存在感が際立った。夏のジャカルタ・アジア大会は100メートルで自己タイの10秒00をマークして銅メダル。日本選手相手には1年間、負けなしと無類の強さを誇った。一層の飛躍を誓った今季は9秒台にとどまらず、「9秒8台」をにらんでいた。
しかし、19年初めに体に異変が起きた。背中に痛みが出て、一向に収まらない。だましだましやっていた6月、今度は友人と街中を歩いていると突然、胸に激痛が走った。診断は肺気胸。100メートルで連覇の懸かった日本選手権は欠場を余儀なくされ、約3週間は「絶対安静」だった。結局、6月以降はレースに出場できず、シーズンベストは5月の10秒11にとどまった。
サニブラウン・ハキーム(米フロリダ大)が9秒97の日本新記録を樹立し、小池祐貴(住友電工)も9秒台に突入するなどライバルたちは世界で躍動した。スタートラインに立つことさえできない悶々(もんもん)とした日々は、歯がゆくてたまらなかっただろう。体重は5キロも落ち、「心身ともにつらかった」。
世界水準のエンジンを
ただ、暗闇の中でも闘志を失うことはなかった。「来年、自分がどうなっていたいのかということに対して、強い意志を持つ。それを常に心の真ん中に置いて、全てがそのための経験と言えるように意識した」。東京五輪で活躍する姿を思い描き、苦しいシーズンを乗り切った。
自身の体と向き合い、ケアやトレーニングを見つめ直す良い機会になったと前向きに捉え、「多少メンタルは強くなったと思う」と笑う。背中を痛めた原因は、重い負荷で取り組んだウエートトレーニングの方法にあったと分析。「数字的に最大重量とかを追いかけていた。そこにある種こだわり過ぎて、支えるインナーの筋肉への意識が薄れていたのかなと。うまく疲労が抜けていなかったのかもしれない」
この冬も9秒台、さらにその先のレベルを目指す歩みは止めない。テーマは昨冬と同じで、「エンジンを世界水準にする」。筋力を鍛えてベースアップし、東京五輪で決勝へ進むための地力をつける。「前回の冬はけがをしてしまったけど、考え方自体は大きく間違っていない。やり方をしっかり考える。トレーニングでも攻めの気持ちを忘れずにやりたい。うまくいくんじゃないかと思っています」。反省を踏まえて道筋は見えている。
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