極め付きは食事面。スタジアムを含めてクラブが提供する食べ物は「ビーガン」のみ。ビーガンとは、プラントベースと言われる植物由来の食品にこだわる完全菜食主義のことだ。スポーツ選手にとって「食」は非常に重要だが、マーク・クーパー監督は、19年10月に放映された英BBC放送のドキュメンタリー番組「フットボール・ゴーイング・ビーガン」で次のように話した。
「選手を含むスタッフ全ては、ビーガンがクラブのポリシーであることを承知の上でここにやって来た。選手たちは自分の仕事の一部として理解し、コミットしている。逆に言えば、ビーガン食はメリットの方が多いから、その方が選手にとっては重要だ」
クラブの栄養士トム・フリン氏は、より詳しくビーガンの利点を教えてくれた。
「睡眠が向上し、よりエネルギッシュになる。回復レベルも圧倒的に改善されます。健康面が総合的に向上し、試合に向けていい状態に臨めるようになった」
「サッカー選手としては『これを食べていればけがをしない、もっと長くプレーできる』という話を聞けば、ビーガンでも構わないということになる。これが最大の秘密。大切なのはそこだ」。
それでは、サポーターの反応はどうなのだろうか。英国のスタジアムの食べ物と言えば、ミートパイやホットドッグが定番。反発もあったに違いない。
再びビンス氏。「もちろんあった。でも私は彼らに『(ホームゲームが行われる)2週間のうち、2時間だけをわれわれに下さい』とお願いした。ここの食事の方が他のスタジアムよりおいしいし、今では何ら問題はない」。実際、ビールなども含めてメニューをビーガンに完全移行してから、逆に売り上げは大幅に伸びているそうだ。
4部昇格を果たし、ピッチの上でも結果を出しているのだから、不平不満の声も減る。勝てば官軍とはこのことだろう。加えて、現在の英国世論において、環境問題がトップ事項の一つであることも、クラブの追い風になっている。
ザハ氏の木製競技場
フォレストグリーンの次のプロジェクトは何か―。ビンス氏は「今後は新スタジアム」と目を輝かせる。
計画中の新スタジアムは、既に「エコパーク」と名称が決定済みだ。まだ行政の許可が下りていないため、着工には至ってはいないが、デザインを担当したのは、2020年の東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の、白紙撤回された当初案を手掛けたことでも知られる英国の建築家、故ザハ・ハディド氏。おのずと注目度は高いが、クラブが目指すのは、世界初となる「完全木製」のスタジアムだ。好奇心と期待を膨らませて、多くの人が状況の進展を見守っている。
16歳少女にも感化
次々と新しいことに挑戦するフォレストグリーン。「最近は年のせいか、以前よりも前進する気持ちが奮い立たないこともある」とビンス会長は苦笑いするが、環境問題で時の人となっているあの少女から「インスピレーションをもらっている」と言う。スウェーデンの16歳、グレタ・トゥーンベリさんのことだ。
「彼女みたいな人があのように動いてくれることで、同世代やその下の世代もさらに影響を受けて、環境問題に取り組んでくれることになる。私も、もっとやらなければならないという気持ちになる」
ピッチ外で注目を集めるが、今季は肝心のフットボールでも好調。19試合を終えた現時点でリーグ2位につけ、昇格争いに加わっている。「今後はピッチ上でもさらに好成績を残し、より露出度を増やして、さらに環境保全などの社会貢献をしていきたい」。ビンス氏は力を込めた。【スポーツライター・松澤浩三】(2019年11月30日配信)
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