イングランドのサッカークラブ、フォレストグリーン・ローバーズは、「世界で今、最も注目を集めている」と称しても過言ではない。とはいえ、イングランド・フットボールリーグ2(実質4部)のこのクラブを知る人は、日本ではごくわずかだろう。
創設は1889年。長い歴史を誇るクラブだが、長らくプロとアマが混在するナショナルリーグ(実質5部)所属だった。プレミアリーグを頂点に、4部までがプロリーグと言われるイングランドで、2シーズン前に創設以来初の4部昇格を果たしたが、ピッチ上に特筆すべき実績はない。
それでもフォレストグリーンのデール・ビンス会長は「世界各国のメディアで取り扱われ、昨年だけで約30億もの人にわれわれのクラブを知ってもらえた」と豪語する。果たしてイングランドの小クラブが、世界中から大きな関心を集めるとは、一体どんな理由なのだろう―。
◇ ◇ ◇
フォレストグリーンのホームスタジアム「ニューローン」はロンドンから車で約2時間、英国中部コッツウォルズにある。国の特別自然景観地域に指定されているこの地域は、いかにも英国らしいかわいらしい村や風景が広がり、観光地として日本人にも有名だ。
係員に誘導されてゲートを抜けると、目の前に見えてきたのは電気自動車(EV)用の充電スタンドで、右を向くとソーラーパネルが見える。至る所にある看板には「Eco Trail(エコ・トレイル)」や「Organic Pitch(オーガニック・ピッチ)」の文字。環境問題への熱心な取り組みこそ、無名クラブが世界に知れ渡る理由だ。
その証拠に、昨年7月には世界で初めて「カーボンニュートラルなスポーツクラブ」と国連に認定された。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素の排出量と吸収量が同じ量になることを示す。二酸化炭素を排出するほど環境に悪影響を与えるが、プラスマイナスゼロなら、環境に優しいことを意味する。つまり、「世界一エコなサッカークラブ」と公式にお墨付きをもらったのである。
フォレストグリーンが「エコ・ファースト」へかじを切ったのは2010年。太陽光や風力で発電されたグリーン電力を供給するビンス氏経営の電力会社「エコトリシティ」がメインスポンサーになってからのことだ。その年の秋、クラブの運営資金が底をつき、クラブ幹部が「スポンサーとなり、オーナーになってもらいたい」とビンス氏に懇願したのである。
ビンス会長は「『私にはできない』と最初は断った。しかし引き受けなければ125年間もこのコミュニティーに根付いてきたクラブが消滅する状況。選択肢が他になかった」と振り返る。
当時は、今のような“グリーン”なクラブをつくる考えはなかったという。だが、クラブ運営に携わるにつれ、新規プロジェクトが自身のエコビジョンの発信にもつながると考え始めた。
ユニホームの材質は竹
「段階的にエコフレンドリーに変わっていった。スタジアムの屋根にソーラーパネルを設置して、スタジアムで消費される電力の一部を自家発電できるようにした。ピッチもオーガニックへと切り替え、電気自動車用の充電スタンドも設置した」とビンス会長。
「オーガニックなピッチ」とは少々分かりづらいが、グラウンド整備員のアダム・ウィッチェム氏は「有機飼料を使用して、さらにピッチの散水にも雨水を使う」と説明してくれた。太陽電池内蔵の芝刈り機も導入し、「普通のピッチよりも手がかかるが、芝の状態はトップクラブにも負けてない」と胸を張る。
スタジアム内のプラスチック使用も最小限にとどめ、トイレの手洗い用せっけんもオーガニック。今年7月に発表したユニホームには、世界で最も持続可能性の高い材質と知られる竹を利用。実に素晴らしい徹底ぶりだ。
新着
会員限定