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しぶこ「実りの秋」へ 最年少賞金女王狙う渋野日向子

オフも1日8時間練習

 その瞬間から、渋野日向子の人生が一変したと言っていい。2019年8月4日。女子ゴルフのメジャー大会、全英女子オープンの最終ラウンド、最終組。首位に並んで最終18番のグリーンへ。5メートルのバーディーパットを鮮やかに沈め、爽快な笑顔で優勝を決めた。日本勢42年ぶりとなる海外メジャー制覇の偉業を成し遂げ、凱旋(がいせん)して一躍、時の人に。「しぶこ」と呼ばれ親しまれている20歳。帰国後に出場した試合では連日、大勢のギャラリーを引き連れ、空前のフィーバーを巻き起こしている。9月22日にはデサント・レディース東海クラシックで最終日に8打差からの驚異的な逆転優勝を果たし、日本ツアー3勝目を挙げた。今季の獲得賞金は既に1億円突破の1億1400万円超。トップの申ジエ(韓国)に600万円強と迫るランキング2位につけ、史上最年少の賞金女王を狙う。「熱い夏」から「実りの秋」へ。残り1カ月余りのシーズンを突き進む。(時事通信社 小松泰樹)

◇ ◇ ◇

 プロテストに合格してまだ1年。初めて挑戦した米ツアー、それもメジャーで頂点に立った。1977年の全米女子プロ選手権を樋口久子が制してから、米ツアー賞金女王にも輝いた岡本綾子、世界ランキング1位に上り詰めた宮里藍ら歴代の名ゴルファーでさえ、挑んでは阻まれたビッグタイトル。世界的な快挙だけに、渋野の存在は瞬く間に知れ渡った。多くの人々の心を癒やし、和ませるトレードマークの笑顔も代名詞となった。

 凱旋(がいせん)試合となった北海道meijiカップ、翌週のNEC軽井沢72、1週休んでニトリレディースの3試合ともギャラリー数が前年に比べ飛躍的に増加。渋野はラウンド中に大勢のファンを引き連れ、渋野の一挙手一投足に熱い視線が注がれた。とりわけ帰国から北海道meijiカップにかけては「本当にたくさんの人から『おめでとう』と言われた。こんなに盛り上がるとは思っていなかったから、なかなか激しい1週間でしたね。でも、楽しく過ごせた」。発熱があっても「10時間睡眠」などでしのぎ、ニトリレディースの直前には「急性副鼻腔(びくう)炎」で再び発熱も。体が悲鳴を上げそうになったが、きっちりとスコアメークした。

躍進支える「強い体」

 躍進の基盤は、体の強さにある。165センチ、62キロ。小学生の頃に今も大好きなソフトボールで鍛え、体幹が太い筋のようにしっかりとしている。しかも柔軟性があり、風雨の中でも軸がぶれず、ドライバーショットは豪快に繰り出す。強靱(きょうじん)な体だからこそ振り切れる。

 ショットもパットも練習に練習を重ね、技術を磨き続けている。青木翔コーチによると、「へたくそなんだから練習しろって言うと、素直にやる。音を上げたことはない。オフだったら1日8時間ぐらい。普通の社会人だったら1日8時間は働くんだから、アスリートはそれだけ練習して当然」。これも体の強さがあるからこそ。両親は筑波大陸上部の投てき選手だった。父の悟さんは砲丸投げや円盤投げ、母の伸子さんはやり投げ。授かった身体能力は随所で発揮されている。

 本人をはじめ誰もが驚いた全英女子オープン制覇だが、決してフロックではない。全英前後の成績や数字が、それを示している。今季からレギュラーツアーに本格参戦し、最初に出たヨコハマタイヤPRGRレディースでいきなりトップ10入りの6位。続く2試合こそ予選落ちしたが、その後は予選通過を続け、5月の国内メジャー第1戦、ワールドレディース・サロンパス杯でツアー初勝利を挙げた。7月の資生堂アネッサ・レディースで2勝目。それより前のニチレイレディースから18ホールでオーバーパーなしのラウンドを続け、9月の日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯初日まで29ラウンド連続に伸ばし、アン・ソンジュ(韓国)が13年にマークした28ラウンド連続を上回るツアー新記録を打ち立てた。その間、全英女子オープンでも66、69、67、68と4日間60台。勝者にふさわしい堂々たるスコアだ。これを加えると実質「33ラウンド」も続けてオーバーパーにしなかったことになる。

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