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「今までにない音楽映画」 「蜜蜂と遠雷」主演の松岡茉優さん

月夜の演奏は「ラブシーンに近い映像に」

 物語の舞台は、3年に1回開催され、若手ピアニストの登竜門といわれる芳ヶ江国際ピアノコンクール。出場した4人のコンテスタントの葛藤と成長を描く。松岡さん演じる栄伝亜夜は、母親の死をきっかけに表舞台から姿を消していた女性ピアニスト。自分の音を探すため再び鍵盤に向かい、ライバルでもある他の出場者と交流する中、本来の自分を取り戻していく。

 原作物では「映像化する意味」を重視するという松岡さんお勧めのシーンが、コンクールに旋風を巻き起こす謎の少年ピアニスト・風間塵と亜夜が月光の下でピアノを弾く場面。幻想的な雰囲気で、原作者の恩田さんもお気に入りのシーンだ。

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 ―文学作品の映像化で心に留める部分は。

 目の動きや汗の感じ、髪の毛の揺れ方、涙など、俳優が肉体を通して、アニメやマンガ、小説ではできない表現をすることに意味があると思っています。(人間の)体温を感じてもらえたら、という感じでしょうか。ただ単に髪形や衣装を原作と同じにするだけなら、コスプレの域を出ないのではと思います。

 亜夜と塵の連弾シーンは原作でもたくさんのページが割かれていますが、どうしたら観客の皆さんに手に汗を握って興奮してもらえる場面になるかを考えました。原作では宇宙をイメージしたり、月が出てきたりするけれど、心情描写はほとんどありません。私たちの肉体だけで月や宇宙を感じてもらうのは無理。そこで浮かんだのが、ラブシーンに近い映像にすることでした。

 ラブシーン的な雰囲気を出すには、亜夜の洋服も肌に合ったボディーラインが出る感じがいいと思い、相談させていただきました。全編を通してこの素晴らしい原作を、まねではなく、どうにか映像として昇華させようとの思いは、常にスタッフや他のキャストにもあったと思います。

エンターテイナーとして羽化する亜夜

 ―コンクールでライバルとなる共演者たちはそれぞれ、役のイメージにぴったりでした。

 塵を演じる鈴鹿君(鈴鹿央士さん)は、原作の設定よりずっと背は高いけれど、目やいでたちはイメージそのまま。本当に才能のある役者さんだと思うので、門出の初出演作に立ち会えたことをうれしく思っています。

 ウィン君(森崎ウィンさん)は陽気な人でさっぱりしていますが、マサル(マサル・カルロス・レヴィ・アナトール)を演じるときは本当に王子様のようで、素晴らしい立ち姿に何度も見ほれてしまいました。

 松坂桃李さんは唯一の年上で常に優しく見守ってくれて、その優しさと物腰の柔らかさが高島明石の役にすべて投入されていました。

 ―亜夜はさまざまな壁にぶつかりながら、ピアニストとして再生を果たします。彼女の物語をどう捉えましたか。

 天才少女と呼ばれ、ピアノと孤独な対話をしていた亜夜が最後にエンターテイナーとして羽化する瞬間をお見せできればと思いました。クライマックスでオーケストラを従えてプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を弾く場面は、彼女が初めてお客さんに向けて演奏する瞬間であってほしいと願いました。

 あの場面で彼女は今まではほとんど見ることのなかった客席に目を向けたり、指揮者を見たり、オーケストラの呼吸を感じたりします。亜夜の成長を感じていただけたらなと思います。

■松岡さん演じる亜夜のライバルは■
 高島明石(松坂桃李)は楽器店勤務のサラリーマンで、「これが最後」と覚悟を決めてコンクールに出場。マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)はルックスと育ちの良さがあり「ジュリアード王子」と呼ばれる大本命。風間塵(鈴鹿央士)は養蜂家の息子で、正規の音楽教育を受けていないが天賦の才能を持つ。
 他に、臼田あさ美、ブルゾンちえみ、福島リラ、眞島秀和、片桐はいり、光石研、平田満、アンジェイ・ヒラ、斉藤由貴、鹿賀丈史らが出演(敬称略)。

インタビュー◆鈴鹿央士さん、藤田真央さん

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