実力派の若手女優として数々の作品で存在感のある演技を見せている。「日々の新陳代謝が激しくて、先週言ったことを忘れるくらいに、速い速度で細胞分裂している気がする」と自身の変化を実感する。
その松岡茉優さんが映画「蜜蜂と遠雷」(石川慶監督)に主演した。演じるのは、復活を期して国際的なピアノコンクールに参加した元天才少女・栄伝亜夜。直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸さんのベストセラー小説の映像化に挑んだ撮影を、「恩田先生に納得していただける作品にすることが私の中でのテーマだった。挑戦と言うより戦いのような現場でした」と振り返る。
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―大きな話題を呼んだ小説が原作で、高いモチベーションを持てる作品だったのでは。
原作は、本を読むと言うよりは読書体験と言った方がふさわしい、まるで音が頭に鳴り響くような、言葉で音が聞こえる素晴らしい小説でした。映画の作り手だったら、誰もが映像化したいと願うだろうなと思いました。
その主演に決めていただいた。感謝しましたし、信頼してキャスティングしてくださったことは自信にもなりました。
◇恩田さんの激賞には「ゴールテープ切れた気分」
一方でプレッシャーもめちゃめちゃありました。でも、恩田先生に納得していただくためには、映画としてちゃんと成功させないといけない。(苦労は多くても)絶対に諦めないでやっていこうと決心しました。
毎日戦っているような思いを持っていたので、映画の完成後に先生から「『参りました』を通り越して『やってくれました!』の一言です」というコメントを頂いたときはうれしくて、まるでゴールテープを切ったような思いがしました。言葉では言い尽くせないほど感無量でした。
―ヒロインの亜夜は、せりふの奥にある感情表現も求められ、難しい役です。
役のことに関しては、原作に全て書いてあったので。それを肉体に落とし込む作業が主でしたけれど、自分の役だけではなく、作品全体を実写映像として成立させないといけないという思いの方が強かったように思います。
ピアニストの役作りでは、ネット動画でいろいろなピアニストの方がプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番(亜夜がコンクール本選で弾く作品)を弾いている姿を拝見して参考にしました。シーンに合った弾き方を選択して、それを当てはめていった感じです。
演奏シーンを担当してくださった河村尚子さんのレコーディング現場にも立ち会いましたが、ピアノとの向き合い方が、あるときは対話し、あるときはまるで格闘しているように見えました。ピアノと河村さんが一体化して一匹の怪獣になっているようなオーラを感じましたね。
その様子を見て、亜夜もピアノに対してだけは自分をむき出しにするのかなと。私の中でのピアノのイメージは、穏やかで上質、まどろんでいるような存在だったのですが、まったく違いましたね。
■小説「蜜蜂と遠雷」と映画化■
恩田陸さんの小説は2009年から16年にかけて幻冬舎のPR誌「星星峡」(休刊)と「PONTOON」に連載され、16年9月に同社から刊行された。第156回直木三十五賞と第14回本屋大賞を史上初めてダブル受賞し、単行本と文庫版(上下巻)を合わせた累計発行部数は149万部を超える。圧倒的な音楽描写を伴う物語の映画化に、「愚行録」で新藤兼人賞銀賞を受賞した石川慶監督が脚本作りから挑戦。監督が留学したポーランドの国立映画大学の同窓生であるピオトル・ニエミイスキ氏が撮影監督を務めた。10月4日、東宝系で公開。
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