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二人で奏でた「リアル蜜蜂王子」 「蜜蜂と遠雷」の鈴鹿央士、藤田真央さん

「塵そのもの」映画界と音楽界の新星

 小説で最もミステリアスな登場人物が、映画界と音楽界の新星の強力なタッグで、スクリーンにリアルな姿を現す。

 国際的なピアノコンクールを題材にした恩田陸さんの同名小説の映像化に挑んだ映画「蜜蜂と遠雷」(10月4日、東宝系で全国公開)。物語の展開で鍵となる天才的な少年ピアニスト・風間塵を演じるのは、この作品が俳優デビューとなる鈴鹿央士さん。その演奏シーンで楽曲の音色を奏でるのは、6月に世界三大ピアノコンクールのチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で2位に輝いた藤田真央さんだ。

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 石川慶監督をして「塵そのもの」と言わしめた新星二人。脚本が完成する前から演奏を依頼されていたという藤田さんは「原作は読んでいた。登場した4人のピアニストの中で一番共感できたのが塵君でした」と話す。

 物語は、コンクールに参加した男女4人のピアニストにスポットを当てる。母親の死をきっかけに表舞台から消えた元天才少女の栄伝亜夜(松岡茉優)、今回が最後の挑戦と覚悟を決めたサラリーマンピアニストの高島明石(松坂桃李)、亜夜の幼なじみでコンクールの大本命と目されるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)と風間塵だ。

 塵は、養蜂家の息子で正規の音楽教育は受けていないものの、天賦の才を持つ少年。カリスマピアニストに才能を見いだされ、コンクールに送り込まれる。天衣無縫の明るいキャラクターだ。

「神様のようなオーラ」と「勤勉な役者魂」

 鈴鹿さんは、藤田さんの演奏を見学して役作りに挑んだ。初対面の時は、藤田さんが持つ独特のオーラに圧倒されたという。「ピアノの前に座って弾き始めると、普段とは打って変わる。本当にすごくて、神様のようだった。『極めた人はこうなるのか』と思いました」

 演奏中の集中した表情、柔らかく細やかなピアノタッチなどを真剣に観察した鈴鹿さん。月夜の晩、ピアノに向かってドビュッシーの「月の光」を奏でる名場面や、コンクール2次予選の課題曲「春と修羅」(作曲家・藤倉大の書き下ろし作品)、オーケストラをバックにした本選のバルトーク・ピアノ協奏曲第3番の演奏シーンの演技は、こうして生まれた。

 撮影本番では、テンションを上げて演奏シーンに臨み、「カメラを感じなくなるような感覚がありました」。藤田さんは「勤勉な役者魂を感じました」と、その挑戦をたたえる。

 塵の破天荒な演奏は、審査員の心をかき乱し、評価を迷わせる。実際に曲を奏でた藤田さんは「『塵君ならこう解釈するだろう』『こういうインスピレーションが湧くだろう』と考えました」と言うが、「どんなことがあっても作曲家の意図を壊してはいけない」という土台は崩さなかった。「作曲家あっての音楽。それが一番大事なことです」

 コンクールを通し、4人は音楽家として、人間として成長していく。本格的に俳優の道を歩み始めた19歳と、ピアニストとして世界に羽ばたくステップを踏んだ20歳もまた、成長の階段を駆け上がっていくのだろう。

■映画「蜜蜂と遠雷」■
 恩田陸さんの原作小説は、直木賞と本屋大賞を史上初めてダブル受賞したベストセラー。3年に1度開催される若手ピアニストの登竜門、芳ヶ江国際コンクールを舞台に、参加した4人のコンテスタントの熾烈(しれつ)な戦いと心の成長を描く。「文字から音が聞こえてくる」とまで言われた音楽描写で、「映像化不可能」と思われた作品の実写化に、映画「愚行録」で新藤兼人賞銀賞を受賞した気鋭の石川慶監督が挑んだ。

◆松岡茉優さんインタビュー◆

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