野球もクリケットもバットでボールを打ち、スコアで争う。似ているようでいて、用具の形からルール、求められる資質まで全く違うスポーツといえる。山本武白志=やまもと・むさし=(21)はプロ野球のDeNAに育成ドラフトで入団して3年間、1軍出場を果たせず昨年戦力外となった。当初はスポーツから足を洗って海外に移住するつもりだったが、5月からクリケットに挑んでいる。「海外でプロになりたい。(トップ選手の年俸は)何十億。ビッグドリームですよ」と壮大な夢を思い描く。
クリケットとの接点は、ふとしたことからだった。知人の知人がオーストラリア在住で、その子供がクリケットをやっているという話を聞いたときに「びびっときた」と言う。昨年12月にメルボルンを訪れ、子供の練習を見学するだけのつもりだったが一緒に指導を受けた。現地で用具を買いそろえて帰国。日本クリケット協会に「こういう者ですけど」と自ら連絡を入れた。
非凡な打撃センス
元日本代表で協会の事務局長を務める宮地直樹さんは、最初の何度かの練習で山本に非凡なセンスを感じたと振り返る。元プロ野球選手とはいえ、クリケットは初心者。打撃での大きな違いはバットを振る角度と打つときの重心だという。野球はバットを水平に振るが、クリケットは垂直に振る。重心は野球が両足のほぼ中心なのに対し、クリケットは体重を前足に乗せて振る。「ナチュラルにできていると感じた」。競技が盛んな栃木県佐野市への移住をサポートした。
5月に実戦デビューして数カ月。佐野のチームに所属しながら複数のリーグ、カップ戦に出場している。野球とは違い、投手(ボウラー)は打者(バッツマン)の顔付近やワンバウンドなど多彩な速度と球種で内外角と高低に投げ分けてくる。捕手(ウィケットキーパー)との間にあるウィケット(3本の棒)が倒れるとアウトになるため、足元にワンバウンドするボールは空振りできず特に難しい。右打者の場合、右足を後ろに引きながらバットをコントロールしてハーフボレーのように打ち返す。宮地さんは「バッティング技術はある程度、身に付いてきた」と成長を見ている。
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