進歩派/保守派の違いや大統領個人のキャラクターを超えて、大韓民国/韓民族というナショナル・アイデンティティーが国際秩序の中でいかに構成されているのかも政策選択を規定する。
韓国の外交安保の基軸が、米韓同盟と拡大核抑止を含めた米国のコミットメントにあることは間違いない。ただ、「見捨てられる懸念(fear of abandonment)」(ヴィクター・D・チャ〈船橋洋一監訳・倉田秀也訳〉『米日韓-反目を超えた提携』有斐閣、2003年)を払拭できないため、朴正煕政権下での独自核の開発(と断念)など「自立」を常に求めてきた。この同盟と自立の間のジレンマは、中国が台頭し、米国の覇権に挑戦する構えを見せる中で一層深刻になっている(Scott A. Snyder South Korea at the Crossroads: Autonomy and Alliance in an Era of Rival Powers Columbia University Press 2018)。
そもそも韓国が1965年に日本と国交を正常化したのは、米国によるベトナム戦争への本格的な参戦など地域秩序が大きく揺らぎ、そのコミットメントが不透明になる中で、「反共・自由主義」陣営に属するという旗幟(きし)を鮮明にするものだった。休戦協定の締結(1953年)から12年後の韓国にとって、「日米韓」の枠組みの下、安保連携と経済協力を確保することで、北朝鮮との体制競争に打ち勝つことが至上命題だった。
それが、今や北朝鮮は韓国にとって、安全保障上の「共通の脅威」というよりは、朝鮮半島における平和体制を共に築いていく「パートナー」であるという位置付けである。「休戦協定体制=旧体制」を打破し、終戦宣言、平和協定の締結へと「平和プロセス」を進めるのが「進歩」となる。
相手の「意図」を過度に好意的に捉えると、厳に客観的に存在する「能力」を過小評価しがちである。ここ最近の北朝鮮による短距離弾道ミサイルの発射は、明らかに客観的な能力の向上を示すもので、韓国にとって脅威が高まっているのは間違いない。にもかかわらず、北朝鮮との信頼関係だけが強調されると、「善意」をナイーブに信じるか、あるいはウソを本当と思い込むようになる。
同盟のクレディビリティー(信頼性)も、「意図」と「能力」のそれぞれをどのように「認識」するか次第であるが、韓国の認識について、その妥当性(relevancy)はともかく、それはそれとして(as such)「メタ認識」することが欠かせない。
日韓GSOMIAの破棄において、日韓対立を「日米韓」の安保連携にまで拡大することに対する米国からの警告を振り切った背景には、ハノイでの決裂に見られるように北朝鮮に対して一切妥協しようとしない米国の姿勢に対する不満がある。日韓GSOMIAの破棄に対して米国から「理解」を得ていたと豪語したが、「ウソ(lie)」(『朝鮮日報』2019年8月24日付に引用されている米国政府高官の発言)と反駁(はんばく)される始末である。外交の世界では、本当のことを全部言う必要はないが、明白なウソをついてはいけないというのが不文律である。
日韓はとかく歴史問題をめぐって対立しているといわれるが、それ以上に、将来ビジョンをもはや共有し難くなったがゆえに、過去の否定的な側面だけが強調されるのである。「歴史問題」ではなく「歴史認識問題」という見方が一般的なのも、歴史とは単に過去の事実の集積であるのではなく、現在においてどのように「認識」されるかによって常に「再構成」されるからである。しかも、「歴史とは、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話」(E・H・カー〈清水幾太郎訳〉『歴史とは何か』岩波新書、1962年)であると同時に、「未(いま)だ来たらざるもの」をどのように思い描き(envisage)、築いていくか(construct)によっても変わってくる。いや、「未来」は変えられる。日韓関係も、そうした再構成の真っただ中にあるのである。
「韓国はわけがわからない国だ」
誰かがそう口にした時、問われているのは韓国ではなく、我々の知的営みのほうなのだ。
これは文在寅政権がまさに発足した日に著者が刊行した対談本(木村幹との共著、『だまされないための「韓国」-あの国を理解する「困難」と「重み」』講談社、2017年)の結論である。韓国を理解するのはなかなか「困難」であるが、かかっているステーク(賭金)の「重さ」は無視できないため、今こそ各界各層からインテリジェンスを結集して策を講じるべきである。(一部敬称略)
浅羽祐樹(あさば・ゆうき) 同志社大学グローバル地域文化学部教授。北韓大学院大学校(韓国)招聘教授。早稲田大学韓国学研究所招聘研究員。専門は、比較政治学・国際関係論。1976年大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。ソウル大学校社会科学大学政治学科博士課程修了。Ph.D(政治学)。九州大学韓国研究センター講師(研究機関研究員)、山口県立大学国際文化学部准教授、新潟県立大学国際地域学部教授などを経て現職。著書に『戦後日韓関係史』(有斐閣、2017年、共著)、『知りたくなる韓国』(有斐閣、19年、共著)などがある。
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