【地球コラム】それでも韓国を知らなければ策を講じられない

「不合理な」軍事情報協定の破棄

 著者は最近『知りたくなる韓国』(新城道彦・金香男・春木育美との共著、有斐閣、2019年)という本を出したところだが、「韓国情勢は複雑怪奇」という声明を出して、「もう知らんわ、韓国」と理解を諦めたいくらいである。(同志社大学教授 浅羽祐樹)

◇ ◇ ◇

 韓国政府は8月22日、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄すると発表した。撤回されない限り、11月23日に失効する。

 日韓GSOMIAは朴槿恵政権の末期、2016年11月に締結されたが、「日米韓」安保連携における「弱い環」である「日韓」を初めてフォーマルにつなぐものだった。その後、北朝鮮による相次ぐミサイル発射に対応する上で土台となる枠組みであり、事実、何度も活用された。

 2018年に南北・米朝が連動して対話局面に転じると、ミサイル発射が猶予され、日韓GSOMIAが活用される機会も少なくなったという。ところが、今年2月、ハノイでの第2回米朝首脳会談が決裂すると、北朝鮮は短距離弾道ミサイルに限って発射を再開した。特に7月25日以降1カ月で7回(しかも、7回目は破棄通告の翌日)も発射している。韓国全土をすっぽりと射程に収め、迎撃が困難な新型ミサイルが完成し(実戦配備され)たとすると、脅威のレベルが格段に上がる。この間も日韓GSOMIAに基づいて情報が共有されたという。しかも、双方得意とする分野が異なるため、本来、補完的で、ウィンウィンの関係である。

 米国政府からも、日韓GSOMIAは「日米韓」安保連携において重要であるため、維持するのが望ましいと韓国政府は繰り返し求められていた。

 客観的には、日韓GSOMIAの有用性とその継続の合理性は明らかだったはずである。にもかかわらず、米国政府からも「深い憂慮と失望(strong concern and disappointment)」が表明されることになる「不合理な」選択を韓国政府が行ったのはなぜか。米国政府は声明文の中で「韓国政府」ではなく「文政権(the Moon administration)」という異例の用語を充てたが、そうした選択は文政権や文在寅個人に特異なのか、それとも、今後たとえ政権が交代しても続く構造的な要因によるものなのか。それを明らかにするためには、文在寅大統領の世界観や価値観、韓国「進歩派」の歴史観、大韓民国/韓民族というナショナル・アイデンティティーがいかに構成されているのか、さらに、それが対日外交政策などの行動にいかに反映され、「現実」を形作っていくのかを内在的に理解するしかない。

 韓国に限らず、「基本的価値」や「戦略的利益」を共有する国ばかりではない以上、すべてのアクターの利得計算の公式を均質と見立てる「リアリズム」よりも、各アクターの利得やイデオロギーがそもそもいかに「構成」されるかに注目する「構成主義(constructivism)」が求められている(例えば、大矢根聡『コンストラクティヴィズムの国際関係論』有斐閣、2013年を参照)。

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