俳優デビューして今年で10年。心に深い孤独を抱える悩める青年から、底抜けに明るい少年、3枚目まで、26歳の菅田将暉さんが演じる役柄は幅広い。映画「アルキメデスの大戦」(7月26日、東宝系で全国公開)では、太平洋戦争へと向かう時代の流れにあらがい、戦艦大和の建造を阻止しようとする若き天才数学者、櫂直(かい・ただし)役だ。
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―今回、出演の一番のモチベーションは。
もともと三田紀房先生の漫画は好きでした。「インベスターZ」なら株、「ドラゴン桜」なら受験と、盛り込まれた情報が面白い。
「アルキメデスの大戦」は戦争や戦艦大和など、一見とっつきにくく重いテーマを背負っていますが、それを誰もが分かる情報として盛り込み、興味をそそるエンターテインメントとして物語を展開させている。そこがすごく好きでした。
しかも監督が山崎貴さんですから。映画界で屈指の力がある山崎組で、大先輩(の共演者)の方々の力を借りたら、絶対に面白い作品ができると思いました。
山崎監督は「まず人間ありき」
―山崎監督と言うと、「ALWAYS 三丁目の夕日」や「永遠の0」のように、ハリウッド顔負けのVFX映像を駆使する印象があります。俳優としては、その映像に負けまいとの思いがあったのでは。
冒頭に戦艦大和の沈没場面がありますが、山崎監督が壮絶に、そして非情に見せてくださるだろうと確信がありました。だからこそ僕らも人間ドラマに徹することができる。そこがこの映画の面白さのように感じます。
監督のスタンスは、まず人間ありき。ちゃんと人間の表情を狙い、その上でいろんな背景を(VFXで)よみがえらせる。もし、監督が「人間は単なる素材だよ」という人だったら、これだけの大先輩たちは集まらない。現場にいると、監督が役者を大事にしていることがよく分かりました。
―山崎監督は、今の日本に戦争前夜に似た空気を感じて危機感を抱き、この作品を撮ったと伺いました。菅田さんも「今やらなければならない作品」と思われたそうですね。
物語の構図は、簡単に言うと、新入社員が会社にプレゼンテーションをしているようなもの。上司が「今までこういうやり方(大艦巨砲主義)でやってきたから」と言うのに対して、「もう飛行機が飛ぶ時代。こんな戦艦を造っても使い物になりませんよ」と意見する。
こういうことは僕らの現場でもよくあります。現場とその上にいる製作の人たちでは、見える景色が全然違う。「これが国単位の話ならどうなるの」ということですよね。
僕らの世代は、戦争と言われても、正直、実感は湧きません。小さい頃、夏休みにテレビ放映される「はだしのゲン」や「火垂(ほた)るの墓」を見たり、実際に戦争を体験された方の話も聞いたりしているので、漠然と怖さだけは知っているけれど。残念ですが、戦争はこれからさらに風化していくと思います。
今回の映画は僕らの世代にとって、戦争のことをもっと知るきっかけになる気がします。演じていて、「アメリカと戦争するってどういうことなの」と考えたし、もっと戦争のことを知るべきだとも感じました。
劇中、戦艦建造を決める会議で、海軍の幹部が女性関係の話でけんかになる場面があります。愚かしいけど、人間の面白さも感じました。映画はフィクションだけど、「どんな歴史も人間がつくっている」と実感できた。だったら僕らでも歴史をつくれるし、戦争にならないようにすることもできる。そこは演じながらすごく感じた部分ですね。
■数学で戦争を止めようとした男に■
1933(昭和8)年、欧米列強と対立する日本で、海軍は世界最大の戦艦の建造計画を秘密裏に立ち上げる。建造に反対する海軍少将・山本五十六(舘ひろし)は、計画に虚偽の見積もりがあるとにらみ、偶然出会った天才数学者・櫂直(菅田)に協力を要請。一度は拒絶する櫂だが、山本の「巨大戦艦が建造されれば、日本は必ず戦争を始める」との言葉に心動かされ、計画阻止を決意する。
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