東京五輪で初実施のスポーツクライミング。8月の世界選手権(東京都八王子市)の結果で、日本の見通しは明るくなった。「自信になる大会だった」。日本代表の安井博志ヘッドコーチの言葉には実感がこもる。
壁を登る速さを競うスピード、課題攻略の数を争うボルダリング、到達高度を比べるリード。五輪では3種目の総合成績で順位を争う複合が行われる。前哨戦となった世界選手権で、男子は楢崎智亜が金、女子は野口啓代(ともにTEAM au)が銀メダルに輝いた。
昨年大会はメダルなし。スピードでのミスを引きずり、ボルダリングやリードで立て直せない選手が多かった。反省を踏まえ、安井氏は「切り替えの速さ」と「状態が悪くても結果が出る強さ」を求めてきた。選手はボルダリングのシーズンもスピードの練習をするなど常に3種目を意識。「1試合が良くても褒めたりはしないし、選手も次、という感じ」。高い水準で安定感を身に付けようと努めた成果が出た。
メダルとともに手応えを感じさせたのは、男女各4人が8人による決勝に進んだこと。安井氏は「こんなにうまくいくのかと思うぐらい」と喜びを隠さない。男女最大各2の東京五輪出場枠のうち、各1枠は世界選手権の複合で7位以内の最上位選手に与える選考方式。競争意識は一層高まり、底上げに寄与した。
早々と五輪切符を得た楢崎智と野口は、1年後へじっくりと備えられる。来年5月に決まる予定の男女もう1人の代表は、世界トップレベルの競争にもまれた末に決定。「戦いの中で人は鍛えられる。個人個人はもちろん、チーム全体をさらにランクアップさせることが重要」。本番まで、切磋琢磨(せっさたくま)できる環境を整え続けることが肝要だ。
◇ ◇ ◇
安井博志(やすい・ひろし)鳥取大出。02年に鳥取県の県立高校の教師として山岳部を創部し、当時はまだ少なかったスポーツクライミングのジュニア育成に携わる。08年から15年までユースの日本代表コーチを務め、16年に代表ヘッドコーチ就任。44歳。鳥取県出身。(2019年9月22日配信)
新着
会員限定