日本のカヌー界にとって、2016年リオデジャネイロ五輪は歴史的だった。スラロームで羽根田卓也(ミキハウス)が初の銅メダルを獲得して時の人に。その一方で、スプリントは出場すらかなわなかった。
スラロームよりも五輪での歴史が長い種目。日本カヌー連盟は「本流」の立て直しに取り組んできた。塩沢寛治第1強化部長は「競技人口が圧倒的に多いスプリントで出られなかったのは、非常に痛かった」と振り返る。リオ五輪後はコーチ陣を刷新するなどしたが、昨年のアジア大会では中国やカザフスタンに後れを取った。「東京五輪に赤信号」(塩沢氏)。開催国枠があるとはいえ、関係者に本番への危機感は拭えなかった。
今年に入り、代表コーチにアレクサンドル・ニコノロフ氏を招いた。以前は英国代表を指導し、ロンドン五輪やリオ五輪で金メダルに導いた実力者。多額の報酬は用意できなかったが、人脈と熱意で動かした。
スポーツ科学の専門家でもあるニコノロフ氏は、カヌーに必要な物理学の知見をかみ砕いて伝える。目新しい技術理論は選手に好評。リオ後に力を入れて強化したフィジカル面を生かすノウハウを手に入れ、今年はワールドカップのカヤックフォアで7位に2度入るなど成果を出している。
メダルを狙う種目は1人乗りよりも、2人や4人乗りに絞った。主力には31歳の松下桃太郎(自衛隊)らベテランが多いが、スラロームと違って直線コースを進むスプリントはパワーの差が結果に反映されやすい。「体力で海外勢に太刀打ちするのは難しいが、日本はバトンパスとか息を合わせるのが得意」と塩沢氏。伸びしろもあるチームワークに活路を求め、悲願のメダル獲得を目指す。
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塩沢 寛治(しおざわ・かんじ) 山梨大卒。大学在学中にスラロームを始め、世界選手権は1985年から3度出場。強豪の山梨・富士河口湖高で教員を務め、保健体育を指導。59歳。山梨県出身。(2019年8月25日配信)
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