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単なる犯罪映画にとどまらない複層的なドラマ 監督・水谷豊が紡いだ「轢き逃げ―最高の最悪な日―」

群像劇思わせ、展開読めない物語に

撮影現場で主演の中山麻聖(右)に話しかける水谷豊監督(C)映画「轢き逃げ」製作委員会【時事通信社】

撮影現場で主演の中山麻聖(右)に話しかける水谷豊監督(C)映画「轢き逃げ」製作委員会【時事通信社】

 映画「轢き逃げ―最高の最悪な日―」(5月10日、東映系で全国公開)は、監督デビュー作「TAP THE LAST SHOW」で非凡な才能を見せた俳優・水谷豊の監督第2作だ。華やかなエンターテインメントの世界の裏側にスポットを当てて迫力あるダンスシーンと濃密な人間描写を両立させた前作同様、単なる犯罪物にとどまらない複層的なドラマを紡ぎ出している。

 結婚式の打ち合わせのために道を急ぐ大手ゼネコンのエリート社員・宗方秀一(中山麻聖)が運転する車が若い女性をひき殺す。彼と、車に同乗していた同僚の森田輝(石田法嗣)は思わず、その場から逃げ出してしまう。

 罪の意識に苦しむ彼らの元に脅迫めいた謎の手紙が…。一方、被害者の女性の両親である時山光央(水谷豊)と千鶴子(檀ふみ)夫妻は、最愛の娘を亡くして失意の日々を送っていた―。

 水谷監督が自ら脚本を執筆した物語は、前半は取り返しの付かない過ちを犯した主人公の若者2人の葛藤、後半は突然娘を奪われた遺族の苦しみにスポットを当てる。クライマックスであらわになるのは、予想も付かない「事件の真相」だ。

 登場人物が抱える個々のドラマが絡み合うさまは、一種の群像劇を思わせる。それが、容易に展開を読ませない面白さにもつながっている。

 映像でも印象的な場面が続出する。撮影にドローンを使い、物語の舞台となる港町を俯瞰(ふかん)してから、車で出発する秀一と輝の2人にフォーカスするまでをワンカットでとらえたファーストシーンは、ヒチコックの名作「ロープ」をほうふつとさせる。

 結婚式の前日、夕景をバックに独身最後の1日を謳歌(おうか)する秀一と輝の姿は「青春の終わり」の切なさに満ちていた。「映像で語る」を旨とする水谷監督の面目躍如と言えるだろう。

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