人気ドラマ「相棒」シリーズに主演する「俳優・水谷豊」は、どんな個性を持つ映画監督に成長していくのか。2017年の監督デビュー当時、「撮り続ける覚悟ができた」と語っていたが、その公約を果たした第2作「轢き逃げ―最高の最悪な日―」(5月10日、東映系で全国公開)は、サスペンスを基調としながら、登場人物の心理をえぐり出す人間ドラマだ。
ある初夏の朝、大手ゼネコンのエリート社員が車で結婚式の打ち合わせに急ぐ途中、若い女性をひき殺してしまう。同乗していた同僚の親友と秘密を共有し、罪の意識におびえる男と、一人娘を失った悲しみに沈む両親。加害者サイドと、被害者の家族を交錯させながら物語は進み、事件の真相と人間の暗部を浮き彫りにしていく。「人間の心の奥底にあるものを描きたかった」と言う水谷監督に、作品に懸けた思いを聞いた。
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―監督デビュー作「TAP THE LAST SHOW」はショービジネスの世界が舞台でした。今回は打って変わってのサスペンス物で、水谷さんが自ら脚本も執筆しました。
水谷 「TAP―」は、僕の中では「あのときにやれることを、やるだけやった」という感覚しかないんです。役者をやっているときも同じですが、何も引きずらないで、「さあ次に行こう」となる。どちらかと言うと、僕はそういうタイプなんです。
2作目を作るに当たって、プロデューサーたちと話した時に、僕が考えるサスペンスがどういうものかを見てみたいという意見が出ました。
―人間ドラマがテーマの中心にあるという点では「TAP―」と通底している部分もあります。
「TAP―」の場合は、最後にタップダンスのショーをやりたいという目的がまずありました。今回は、最初にこういうことが起きたときに、それにまつわる人たちがどうなっていくのか、ということでしょうか。
まず人というものをテーマにしてみたいというときに、タッチとしてはサスペンスだけれど、結局は人間ドラマになっていくような流れが作れればいいなと思っていました。
人間の心理は、自分で自分のことも分からなくなるくらい、測りしれない。誰も想像していなかったようなことが起きます。いろんなこともできますし。
イマジネーションを膨らませて脚本を書いているうちに、映画の結末が見えてきた感じですね。
老若男女の群像で描いていく物語
―被害者の遺族の悲しみにも焦点を当て、家族を物語のポイントに置いています。
水谷 何かを表現するときに、若い人だけでは描けないんですよ。逆に結構長く人生を過ごした人たちの話を作ろうとしても、どこかで若い人の存在が必要になる。
女性だけ、男性だけでも駄目なんです。なぜなら、そうやって世の中ができていますから。ドラマを作りたい、人間を描きたいと思うと、どうしてもそういうもの(家族)が自分の中で必要になってきますね。
■映画「轢き逃げ―最高の最悪な日―」■
水谷豊監督の第2作で、脚本を初めて執筆した作品。監督は被害女性の父、時山光央役で俳優としても出演。主演を務めるのは若手俳優の2人で、大手ゼネコン社員・宗方秀一は中山麻聖、同僚の親友・森田輝は石田法嗣。秀一の婚約者・白河早苗には小林涼子、光央の妻千鶴子には檀ふみ。事件を追う柳公三郎と前田俊の刑事コンビは岸部一徳と毎熊克哉が演じる。
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