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岸部一徳さんが語る「監督・水谷豊」の魅力 映画「轢き逃げ―最高の最悪な日―」

脚本に「僕ならあのタイプ」という刑事がいた

 映画監督として本格的に歩み始めた水谷豊さん。脚本にも初めて挑戦した第2作「轢き逃げ―最高の最悪な日―」(5月10日、東映系で全国公開)には、第1作「TAP THE LAST SHOW」に続いて、名優・岸部一徳さんが出演する。

 結婚目前、ひき逃げ犯に転落した若きエリート会社員と、車の助手席に乗っていた親友。事件を知らずに挙式した婚約者と、一人娘を失った両親―。岸部さん演じるベテラン刑事は、若い刑事とのコンビで捜査を進めながら、人間群像の心の揺れと底知れぬ心理、衝撃的な「真相」を静かに見詰める。人気ドラマシリーズ「相棒」で長年、俳優同士として向き合ってきた水谷監督の映画作りは、その目に、どう映っているのか。

   ※  ※  ※  ※  ※

 ―水谷さんは「轢き逃げ―」で脚本も書きました。
 岸部 脚本まで書くのはしんどいので、そんな才能もあったのか、と。
 出だしのシーンは、映像になると、台本で感じた以上に、物語に引っ張っていく力があって魅力的でしたね。事件の舞台になる地方都市を、上空からドローンで撮っています。
 最後まで読んでいくと、「人間の嫉妬」というテーマが出てくる。なかなか表に出すのは難しいテーマで、これまでの映画ではなかった気がします。
 誰でも「嫉妬から負けないように」と競争心が生まれ、向上心につながる場合もあれば、その逆に出る場合もある。「分かる気がするな」というのはありました。

◇プライベートにも似た会話のユーモア
 ―主人公の2人(中山麻聖さん、石田法嗣さん)の話以外にも、夫婦になっていく若いカップル、娘を失った親といった人間のいろいろな物語の形がちりばめられています。岸部さんは事件を調べるベテラン刑事役でした。
 岸部 僕が職業で刑事を選んでいたら、ああいう刑事になっていたかな。
 実際に犯人を突き止めるのは意外と簡単。若い刑事(毎熊克哉さん)が刑事的な動きをして、僕は観客と同じ場所で、主人公らの心理に、一体何があったのかを、ただ見続けている感じでした。
 昔、「病院で死ぬということ」という映画で、終末期医療の医者を演じた時、市川準監督に「自分がこの立場だったらどう言うか考えて」と言われたのを思い出しました。取調室での言い方だったり、若い刑事とのやりとりの間の取り方だったり、ものすごく考える力が必要でした。ある意味、傍観する立場の刑事とはどういうことかな、と。

 ―刑事コンビのやりとりはユーモラスで、映画のアクセントになっていました。
 岸部 どうってことのないやりとりが、取調室での犯人の追及よりも、意外と面白い。監督もその面白さを分かって、台本を書いているところがあります。
 僕との日常的な付き合いでの会話や冗談を、あんな形に変えて書いているという感じが、ちょっとしました。

■映画「轢き逃げ―最高の最悪な日―」あらすじ■
 大手ゼネコン社員・宗方秀一(中山麻聖)は車を運転中、若い女性をはね、逃げてしまう。親友の森田輝(石田法嗣)を助手席に乗せ、副社長令嬢の白河早苗(小林涼子)との結婚式の打ち合わせに急ぐ途中だった。秀一は何者かの脅迫におびえながらも式を挙げ、「人生最高の日」を迎えるが、娘を失った時山光央(水谷豊)、千鶴子(檀ふみ)夫妻は最悪の日々を過ごしていた―。岸部さんは若手刑事・前田俊(毎熊克哉)と組む老刑事・柳公三郎役。

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