ISUは作業部会を設けて新採点方式の策定に着手し、五輪から4カ月後の2002年6月に開いた総会で承認した。この総会で技術委員に選ばれた平松さんは「ジャッジ教育がまず大変だった」と述懐する。ジャッジが評価する技のGOEや演技構成点に関し、日本選手を含むさまざまな国の選手の映像を使って採点基準をレクチャー。作業部会のメンバーを務め、総会で技術委員長に選出されたラカーニック氏は「ジューク氏の素案を元に細かい部分はゼロから作った」と語った。
新採点方式は03~04年シーズンのグランプリ・シリーズで試行され、世界選手権は05年モスクワ大会、五輪は06年トリノ大会で初めて使われた。それ以降、ISUは時代とともに少しずつ基準を修正してきた。平松さんは「(技術や表現を)追求しないと点数をもらえないから、すごく進歩した。技術委員の時に感じていたのは、選手との追いかけっこ。私たちが目指してほしい基準を作るとすぐにマスターして追いついてきて、また次の基準を考えていた」と振り返る。
ラカーニック氏も「(コーチや選手が)結果を得るために取り組むべきことが分かりやすくなった。有益な点は多い」と語った。その一方で、演技の個性が失われてきていることを懸念。「現行の採点方式によって、プログラムが画一化されている面もある。フィギュアスケートというスポーツの持つ美しさと多様さをいかにして保つか。われわれが常に直面している課題だ」と述べた。
採点の客観性、まだ30%
ISUが目指す客観性について、ラカーニック氏は「以前(の6点満点方式)は0%だった。現行方式では3分の1くらいだろう」と厳しく分析した。ジャンプは基礎点や回転不足の基準が決まっており、スピン、ステップはレベルの獲得要件が定められているため、一定の客観性が保たれているといえる。ただ、スケーティング技術、技のつなぎ、演技力、構成、音楽の解釈の5項目を各10点満点で評価する演技構成点や、技のGOEは主観が入る余地がまだ大きい。
平松さんは「演技構成点が技術点に引きずられている。(表現面の評価は)ジャッジの感性が違うから、そこを詰めるのは難しい。教育しかない」と指摘した。演技構成点の項目には技術的な側面も含まれているとはいえ、難しいジャンプを決めると高いスコアが出る傾向は否めない。ISUはかつて、演技構成点と、技術点のGOEを評価するジャッジを分ける試みをしたが、うまくいかなかったという。ラカーニック氏は「われわれは立ち止まれない。取り組みは続く」と話した。(2019年4月25日配信)
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