私は「走禅(そうぜん)」と呼ぶ。すなわち、走る禅というわけだ。走っていると体温が上がり、体内も活発になる。同時に脳も活発に動き、いろいろな想念が湧き上がって来る。
坐禅している時に、いろいろな思いがよぎるのに似ている。ある禅僧は、坐禅は無念無想になるのではなく、多くの煩悩が湧いてよぎるのを「受けて流す」ことが大事だと説いた。そこにとどまらず、どんどん流し、ただ座るという「一(いち)」の存在になることなのだ。
走るのも同じ。息が上がり苦しくなると、いろいろな煩悩は受け流すことしかできなくなり、そのうち走るだけの「一」の存在となることで、脳の中で悩みが収まるところに収まっていくのだろう。
実際、走ることで脳の器官である海馬が「太る」と表現する研究者もいる。この海馬は人間の記憶や学習能力に重要な働きをする器官で、ここが障害を起こすことでアルツハイマー病の原因になるともいわれている。
走ることで海馬を「太らせ」、機能を活性化させることでアルツハイマー病の予防にもなるのかもしれない。
ボランティア活動を開始
マラソン好きになった私は、テレビキャスターの安藤優子さんから提案を受け、ジョギングでうつ病に悩む人を癒やせないかと仲間を募り、「みんなで同じ風にあたろう(愛称みん風)」というボランティア活動を6年半前にスタートさせた。
協力者は、マラソン解説の増田明美さんや筑波大教授で精神科医の松崎一葉先生、斎藤環先生だ。
松崎先生や斎藤先生がケアしている患者の方の中でジョギングをしてみようと思われる方に参加をいただき、月に1度、都内の公園で一緒に軽いジョギング、ストレッチを行い、一緒におにぎりを食べる。
たったそれだけと言われるかもしれないが、これでうつ病に悩む人が劇的に回復していく。何年も引きこもっていた人の社会復帰が成功すると、スタッフ全員で喜び合う。
問題は、公園まで出てこようという意欲が出るかどうかだ。部屋に引きこもっているのを無理やり引っ張り出すのではない。外に出てみようという意欲を持ってもらわねばならない。それを私たちが後押しする。
なぜこんなに効果があるか。私たちを指導してくださっている松崎先生の解説によると次の通りだ。
松崎先生は、産業精神医の権威で「クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち」(PHP新書)などの一般書の著書もあり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で宇宙飛行士のメンタルヘルスも担当されている。
みん風の精神医学的基盤は「スタッフがカウンセリングマインドを持って対応すること」。精神療法家であるロジャースが提唱したカウンセリング手法で、クライアントの視点に立った相談対応の技術である。受容・傾聴・共感の3ステップが基本となる。
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