2020年東京五輪で初めて実施される空手で、金メダルの期待が懸かる種目「形(かた)」。女子の第一人者、清水希容は関西大時代の13年から全日本選手権6連覇中で、18年のジャカルタ・アジア大会でも2連覇を遂げた。しかし、3連覇が懸かった世界選手権で地元スペインの選手に惜敗。外国勢のレベルアップで無類の強さを誇った絶対女王の地位も脅かされつつある。そうした中でも「常に自分を超えたい」と、たゆまぬ精進を続ける。空手の形にどう向き合っているのか、何を追い求めていくのか、1年半後に迫った五輪への意気込みは―。日本伝統の競技に真摯(しんし)に取り組むエースの今を追った。(大阪支社編集部・西村卓真)
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練習拠点とする大阪府内の道場。鏡に映る自分と正対し、清水がゆっくりと息を整える。一瞬の静寂の後、周囲が驚くほどの大声で叫んだ。
「チバナ・クーサンクー(知花公相君)!」
形では自分が演武する技の名前を大声で告げなければならないからだ。緊張感に包まれた空気の中で、技を繰り出す際のきぬ擦れの音と、節目で発される叫び声だけが響き渡った。清水は気迫のこもった表情で自分の世界に入り込み、四大流派の一つ「糸東(しとう)流」の特徴である速さや技の切れを表現する。全身に闘志をまとった力強さは、見る者に何かを訴えかけているようだった。
「空気感、勢い、表情、肌感覚などを感じてもらいたい。それが形の魅力です」
空手には1対1で争う「組手」もあるが、形は仮想の敵との攻防を演武し、技の正確さや美しさなどが評価される。つま先から一切ぶれない体をコントロールする肉体だけでなく、高い集中力が求められる。
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