分断する米国を映し出した2016年の大統領選挙。あれから2年が過ぎ、11月6日の中間選挙では共和党が議会上院の過半数を保持したが、民主党が下院を押さえ、ねじれ議会が誕生した。
果たして大統領選以来、米国内でどのような変化があったのか。中間選挙の結果は何を示すのか。これから米国はどこに向かうのか。米国の地方新聞で10年間、記者として働いた筆者が、ロサンゼルス郊外のオレンジ郡で取材した生の声や光景を交えて解説する。
(在米ジャーナリスト・志村 朋哉 2018年12月)
筆者が初めてオレンジ郡を知ったのはテレビドラマだった。
ホワイトハウスを舞台にした「ザ・ホワイトハウス」の中で、主役の一人であったロブ・ロー演じる大統領の側近サム・シーボーンが、共和党が牛耳るオレンジ郡の下院選に民主党から出馬。無謀と言われながらも、理念に突き動かされて選挙に挑む姿が印象的だった。
それほどまでに、オレンジ郡は民主党が入り込む余地のない共和党の強固な地盤だった。民主党が力を持つ隣のロサンゼルス郡とは、「オレンジのカーテン」で隔てられているとまで言われていた。
しかし、今回の中間選挙で、ついにその牙城が崩れた。
共和党が占めていた4つの下院選挙区すべてで民主党候補が勝利。上下両院合わせて、連邦議会にオレンジ郡を代表する共和党議員がいなくなり、歴史的な転換と報じられた。
敗れた一人のダナ・ローラバッカー氏は1989年から下院議員を務める共和党の大物。「プーチン(ロシア大統領)のお気に入り議員」と言われるほどの親ロシア派のローラバッカー氏は、外交面でドナルド・トランプ大統領を支える重要な存在だった。そんな大物が負けたのだから、地元のみならず全米への衝撃は大きかった。
「オレンジ郡の全議席を民主党が獲得するなんて、2年前には絶対に予想できませんでした」と語るのは、オレンジ郡のチャップマン大学で政治学を教えるマイケル・ムーディアン教授。
オレンジ郡で起きたことは、トランプ大統領への信任投票とも呼ばれた今回の中間選挙の縮図でもあった。
米国各地で、高学歴・高所得な人々が多く住むオレンジ郡のような郊外の選挙区が、共和党から民主党に一転した。民主党が下院の過半数を得るには23議席以上をひっくり返す必要があったが、それを上回る大勝利を収めた。
ツイッターや公の場で物議を醸す発言を繰り返し、過激な移民規制や外交姿勢を打ち出すトランプ大統領に対して、米社会が揺り戻しを見せたといえる。
大統領の支持率は40%前後。一方、不支持は50%を超えている。筆者の実感では、ここまで好き嫌いの分かれる大統領は見たことがない。
「誰に尋ねるかにもよりますが、全体的に見ると米国人はトランプ氏をあまり支持していません。景気が良いことを考慮すると、これは珍しいことです」とムーディアン氏。「度重なる嘘や過激なツイートにうんざりした人は多い。ロシア疑惑も影を落としているでしょう」。
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