2018年10月20日から28日まで、ハンガリーの首都ブダペストで世界レスリング選手権が開催された。東欧のパリとも称される街が舞台。しかし、日本レスリングの関係者に美しい風景を愛でる余裕はなさそうだった。18年に入り、日本協会の栄和人強化本部長(当時)による五輪4連覇の伊調馨(ALSOK)らへのパワーハラスメントが発覚。半年以上も続いた混乱の中、強化体制を一新して臨んだジャカルタ・アジア大会では、女子が史上初の金メダルなしに終わった。五輪で金メダルを量産してきた女子は立ち直れるのか。正念場となったブダペストでの闘いをリポートする。(時事通信運動部・鈴木雄大)
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大会前日に冷や水を浴びせられるような出来事があった。世界レスリング連合(UWW)の理事改選で、再選を狙った日本協会常務理事で1984年ロサンゼルス五輪金メダリストの富山英明氏が落選。日本人理事がいなくなった。
こうなるとルール改正や大会の誘致など重要な情報が入りにくくなる。日本は1972年から理事を送り出し続けてきただけに、富山氏は「あり得ない。東京五輪を控えているのに…」とショックを隠せなかった。
かつて、日本協会とUWWの関係はかなり親密だった。UWWの以前の名称は国際レスリング連盟(FILA)。日本協会の福田富昭会長が副会長を務め、マルティネッティ会長(当時)の側近として重責を担っていた。
しかし、2013年にレスリングが五輪除外候補の競技となると、会長は責任を問われ解任。新たにラロビッチ会長が就任した。名称もUWWに変わり、文字通り組織が一新された。「旧体制派」の福田会長は副会長と理事を退任。富山氏が理事を引き継いだとはいえ、UWWと日本の関係はその当時から疎遠になり始めていた。富山氏は「自分の力不足」と反省したが、協会全体としてもっと危機感を持つべきだった。
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