新橋演舞場で「るろうに剣心」が開幕し、花道から早霧さん演じる剣心が登場した。キレのある身のこなしで男性陣との立ち回りも鮮やか。女性だけの宝塚版に比べ、舞台にリアル感が増した印象だが、早霧さんが剣心を演じていることに何の違和感もない。「漫画とリアルを中和させる存在」が腑に落ちた。
歌舞伎の女形は一生を懸けて芸を追究していくが、宝塚の男役は退団とともに男役も卒業することになる。早霧さんも退団記者会見で「山口百恵さんがマイクを置いたように、男役を永久に置く」と言って男役に別れを告げた。
在団中に男役として演じた役を退団後に演じた例は過去にないわけではない。古くは内重のぼるさんが「霧深きエルベのほとり」のカール、最近では、剣幸さんが「ミー・アンド・マイ・ガール」のビルを演じている。在団中に演じた役ではないが、麻実れいさんは退団後に「ハムレット」のタイトルロールで読売演劇大賞の最優秀女優賞を受賞。米ブロードウェーでも上演された宝塚OGによるミュージカル「CHICAGO(シカゴ)」で、峰さを理さん、麻路さきさん、姿月あさとさんが悪徳弁護士のビリーを演じて話題を集めたのも記憶に新しい。
「るろうに剣心」を舞台化した小池修一郎さんは「今は女性が男性を演じるとか男性が女性を演じるということの垣根がなくなっている。こういう文化はもともと日本にあり、東アジアの一つの文化」と指摘。早霧さんも「対極にいる男と女をやれるのが面白かった。それは普通の人にはできないことだから。もし男性に生まれていたら、歌舞伎の女形になりたかったかもしれない」と語る。
宝塚音楽学校時代から含めると、20年近く修業を重ねた男役芸。「男役にしか出せない雰囲気や匂い立つもののスイッチを持っている。それを封印するのはもったいないので、飛び道具のように持ち歩くべきだと思う」と早霧さん。女性を演じる際にも「普通の女優さんに表現できない女性としてのカッコ良さとかエレガントさを表現できる気がする。それは多分、女役と組んできた経験がそうさせるんじゃないかな」
その一方で、宝塚の世界の中でこそ成立する男役の期間限定の魅力もあるという。「人間誰しも美しい時代というものを持っている。『男役10年』と言うように、10年以上たった男役の方が魅力的。それは見た目だけでなく、精神性を含めた美しさ。魅力的な時代に一心不乱にやっている姿が美しいんです。40代になったら同じ感覚を持てるかどうか。だから引き際も大切なんです」
(文化特信部・中村正子)
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