凜としてクールな男装の麗人。女性が理想とする男性像。宝塚の男役の一般的なイメージはそんなものだろう。だが男役の守備範囲はもっと幅広い。それを体現してみせた早霧せいなさんは、宝塚歌劇100周年の2014年に雪組トップスターに就き、硬軟自在な演技で歌劇団の歴史に残る観客動員記録を残して17年に退団した。
女優として新たなスタートを切った早霧さんに、封印したはずの男役を演じる機会が巡ってきた。在団中に大ヒットさせた浪漫活劇「るろうに剣心」の主人公、緋村剣心役。当たり役への思いや、男女の枠を超えて演じる面白さについて聞いた。
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17年7月23日、退団公演の千秋楽。タカラジェンヌとして臨んだ最後の記者会見で今後の活動について問われ、「軍の機密事項です」と言って報道陣の笑いを誘った早霧さん。「辞めたときは宝塚の男役以上に自分にとって大切で打ち込めるものにはもう出合えることはないだろう、そう思うくらい心に響くものに出合えたし、それをやり遂げられた充実感があった」と当時を振り返る。
やがて〝機密〟は少しずつ明らかになり、11月にはショー仕立てのコンサート「SECRET SPLENDOUR(シークレット・スプレンダー)」、今年5、6月にはミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に出演。女優として新たな歩みが始まった。
「この1年、ゆったりした時間の中で自分を取り戻していった。宝塚の男役じゃない役や舞台を経験して、表現の仕方や表現する場は一つじゃないと実感でき、男役のように打ち込めるものにまた出合える感覚がある。宝塚は序章だった。これからが私の本編」。そう言い切る表情に意欲がみなぎる。
そんな劇的な心境の変化の中で「るろうに剣心」に取り組むことになった。「男性キャストがいる中で自分が男性役を演じるのはどうなのかと悩みましたが、男性を演じるのも女性を演じるのも、人を演じるという意味では変わりはないんじゃないかという境地に行き着きました」
◆早霧せいな(さぎり・せいな)1980年9月18日生まれ、長崎県佐世保市出身。2001年に宝塚歌劇団に入団。宙組を経て雪組に異動し、14年に雪組トップスターに就任。17年に退団し、女優として活動中。
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