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「産後うつ」と戦う

8割が「うつ」「うつ一歩手前」

 2015~16年の2年間、妊娠中・産後1年未満に自殺した女性が少なくとも102人いたことが、国立成育医療研究センターの研究班が18年9月に公表した調査結果で明らかになった。妊産婦の自殺者数が全国規模で把握されたのは初。この2年間に亡くなった妊産婦は357人だったので、自殺が3割近くを占めるという深刻な状況だ。そして、その自殺要因との関連が指摘されるのが「産後うつ」である。

 産後うつは、出産した女性のおよそ10人に1人が経験するとされる。症状は産後以外の時期のうつ病と大差はなく、「気分の落ち込み」「いらいら」「不眠」「食欲の変化」「不安」「マイナス思考と罪悪感」などが少なくとも2週間続く。産後1~2カ月以内に発症することが多いが、数カ月後に起こることもある。

 原因として、出産によるホルモンバランスや体の変化、生活環境の激変によるストレスなどが挙げられるが、必ずしも明確ではない。核家族化による母子の孤立や出産の高年齢化、長期間にわたる不妊治療、妊娠への職場の無理解や仕事の重圧―。現代の家庭をとりまく問題がさまざまな形で関わっているようにみえる。

 産後ケアに関する活動に取り組んでいるNPO法人「マドレボニータ」(東京都渋谷区)は16年、約1000人の産後女性を対象としたアンケート調査を実施した。その結果によると、「産後うつ」と実際に診断を受けた人は5%程度だったが、3割が「診断は受けていないが、産後うつだったと思う」、約半数が「産後うつの一歩手前だったと思う」と回答。8割以上が「うつ」または「うつに近い状態」だったという結果だ。

 日本でも近年、産後うつの問題がクローズアップされ、「産後うつ」という言葉自体の認知度はかなり上がった。しかし実際に理解が深まっているかといえば、まだまだだろう。新生児を抱えた女性が「眠れない」「だるくて体が動かない」などと訴えても、「甘えている」と受け止められることも少なくない。「お母さんなんだから、しっかりして」「頑張って」と。

 日本の周産期医療は世界トップレベルで、「最も安全に子どもを産むことができる国」と言われる。しかし、一方で子どもを産んだ母親の多くが疲弊し、孤独に悩み、うつと戦っているのも現実だ。産後の女性が実際に、どのような状況で、どのように精神的に追い詰められていくのか。うつ状態を経験した3人から話を聞いた。(時事通信社編集局編集委員・沼野容子)

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