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映画「散り椿」で「美しい時代劇」に挑んで 西島秀俊さん

「見たことのない殺陣」求める監督との真剣勝負

 俳優の西島秀俊さんが「美しい時代劇」に挑戦した。映像美で名高い木村大作監督の映画「散り椿」(9月28日、東宝系公開)に、主演の岡田准一さんが演じる浪人、瓜生新兵衛の友であり、恋敵でもあった扇野藩側用人、榊原采女役で出演。映画に懸けた思いと見どころを聞いた。

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 ―もともと木村監督の撮影現場には興味があったと伺っています。
 西島 そうですね。「確かに厳しい現場だけれど、学ぶことがすごく多くて、やりがいがある」という話を、過去の作品に出演した方々から聞いていて、出演をお願いしたいなと思っていました。今回、本当に出演の話を頂いて、うれしかったです。

 ―今回の作品は、時代劇としてある意味、すごく挑戦的だと思うのですが。
 西島 この映画は、大作さんが黒澤明監督や他のいろいろな監督の現場で培った知識を大切に受け継いでいる部分があります。
 例えば、映画のオープニングの場面(新兵衛が刺客を相手に立ち回りを見せる場面)の雪の美しさは、コンピューターグラフィックス(CG)や合成映像では絶対につくれません。(冬の暗い空の感じを出すために)朝からずっとタイミングを待って、日が暮れる頃に「雪」を降らせて、一発勝負で撮ったそうです。昔からある経験と技術の集大成で撮ったシーンです。
 一方で、大作さんが「今まで見たこともないような殺陣を撮りたい」と言い、よりリアルな間合いで斬り合うという、新しい部分もある。両方あるのが、この映画のすごいところだと思います。

 ―静謐(せいひつ)な映像の美しさと、息詰まる殺陣のシーンが並び立っていますね。
 西島 美術担当が撮影場所のフレーム(背景)を本当に丁寧につくっても、大作さんは「もうちょっと竹を植えよう」などと、さらに完璧さを求めて絵作りされますね。
 でも、撮る時は多重カメラを使い、1シーン1カットで一気に撮ります。大作さんの言う「美しい時代劇」とは、その場の空気や俳優同士の魂の交流のような、目に見えないものまで撮影したいということだと思います。だから、殺陣のシーンにしても、何か美しさを見いだすというか、心の交流のようなものを探し、気持ちを込めて演じました。
 ロケ地の富山に入った夜、大作さんの部屋に連れて行かれて、岡田君が雪の中で刺客を斬るシーンと、1人で稽古するシーンを見せていただいたのが、よかったと思います。「これは全シーン、本当に気合を入れないと、この素晴らしい絵に負けてしまう」と感じましたから。

 ―西島さんは現代劇でもアクションを演じていますが、この映画の殺陣はスピードがある上、撮影はカットを割らずに撮るので、ごまかしが利きません。その中での演技は緊張感があり、やりがいもあったのではないでしょうか。
 西島 完全に斬り合える間合いを取っていないと、当然、うそだとすぐ分かってしまうし、相手の刀を本当にぎりぎりでよけないと先読みしていると思われてしまいます。1回しか勝負できないので、緊張感はありましたが、燃えるというか、本当に楽しかったですね。

■木村大作監督と映画「散り椿」■
 木村大作監督は、黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」「用心棒」などで撮影助手を務め、「八甲田山」「鉄道員(ぽっぽや)」など数々の作品を撮影した名キャメラマン。監督としても「劔岳 点の記」で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞し、今回が3作目になる。
 原作は直木賞作家・葉室麟の同名小説で、脚本は小泉堯史。江戸時代の扇野藩という架空の藩を舞台に、妻の最期の願いを聞き入れ、かつて離れた藩に舞い戻る浪人、瓜生新兵衛(岡田准一)を主人公に、清廉な武士の生きざまと切ない男女の愛の物語を描く。全編が四季の自然と歴史の香り漂うオールロケ映像。音楽は加古隆。

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