日本農業の衰退が止まらない中、最高学府である大学の農学部は何をすべきなのか。東京大学総長を務めた三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏は「日本農業のビジョンを示せ」と訴え、こうした取り組みを行わない農学部をゼロから作り直すべきだと「農学部解体論」を唱えている。小宮山氏に話を伺った。
(聞き手=時事通信デジタル農業誌「Agrio」編集長・菅正治)
◇ ◇
―大学農学部の何が問題なのか。
オランダは小さな国だが、ワーヘニンゲン大学が農業を引っ張って、世界第2位の農業輸出国になった。大学が農業をつくるのだという思いでやっているから実現できた。それに対し、日本の大学では、稲の遺伝子のように、一人一人の先生は生命科学など細部の研究をしていることが多い。
もちろんそれが無意味だというのではないが、生命科学なら理学部や工学部でも研究している。少なくとも農学部全体としては、日本の農業に具体的な指針を示してほしい。
古い知識から最先端の知識までを組み合わせれば、米国のように大規模な農業ではなく、オランダのように大規模なハウスでもなく、日本に最適な農業が見つかると思う。米国やオランダと違ったものをつくれば、アジアに出て行きやすくなると思う。
チャンスはあるのに、そういうことを何もしていない。学部全体や、農業大学なら大学全体として、そういう指針を打ち出す責任があると思う。学会全体としても同様だ。だから解体せよと言っている。林業についても、日本の林業をどうするか、きちんとビジョンを出すべきだ。
日本の大学に欠けているもの
農業ではオランダのワーヘニンゲン大学が有名だが、米国の大学も強い。もともと米国の州立大学は農業のために設立されたから、伝統的に農業や林業といった1次産業に強い。今でも多くの博士号取得者が農業に従事している構造をつくっている。
日本はそういうことをしていない。今までは農作物の作り方ばかり研究しており、経営としての視点はなかった。研究としての目的は、日本の最適農業のビジョンをつくることだ。それは当然、アジアへの波及力を持つ。このままではアジアの国にも遅れてしまう。
―東大総長時代に東大農学部とそういう話をしなかったのか。
実は内部ではその話をしていた。それで農学部をつぶしたがっているとも言われていた。決して農学を軽んじているわけではない。日本にとって1次産業は地方創生に直結するし、重要だ。しかし、大きな組織はそう簡単には動かない。総長は4年しかやっていないし、本当に手をつけるまでの活動はやっていない。責任追及されれば、すみませんと謝るしかない。
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