将来の夢を持てなかった高校生がピアノの調律師と出会い、その仕事に魅せられ、同じ世界に飛び込んでいく。6月8日公開(東宝系)の映画「羊と鋼の森」の主人公は、新米調律師の外村直樹。演じるのは人気俳優、山﨑賢人さんだ。
自分が「これは」と決めた仕事に、誠実に向き合う。壁にぶつかって悩みながらも、秘めた才能の芽を少しずつ伸ばし、青々とした葉を広げていく。社会人として歩み始めた青年の成長物語に挑み、新境地を開いた23歳に、今の思いを聞いた。
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―この映画では、大きな「事件」が起きるわけではありません。人の細やかな感情をすくい取り、温かな余韻を残す人間ドラマですね。山﨑さんは、こういう作品が好きだなという印象があります。
山﨑 そうですね。とてもゆっくりした時間の中で、人間がリアルに成長していく様子を描いている映画です。
出演のオファーがあった時は、映画「оrange―オレンジ―」で一緒に仕事をした橋本光二郎監督と、またご一緒できるのが、とてもうれしかったです。
原作の宮下奈都さんの小説も読みました。音まで聞こえてくるような文章で、すてきな世界が描かれていて、魅せられました。
―宮下さんの小説は本当に、音を文字で表現する部分が素晴らしかったですね。映画では逆に、映像でピアノの音のイメージを表現することに、監督がとても力を入れていました。
山﨑 森だったり、雪の結晶だったり、いろいろありましたね。ピアノ自体、森の木から作られた楽器なので、その楽器の音が映像として、きれいに描かれているのは、印象的でした。
映画の冒頭には、高校の体育館で、森の木々の揺れるシルエットが出てくるシーンがありました。監督は実際に、木の形をした作りものを準備して、それに照明の方が光を当てて、シルエットを表していました。こういうふうに撮るんだなと、感心しました。
―主人公をどう演じるかに当たって、一番大事にした外村の「芯」の部分は何だったのでしょうか。
山﨑 ピアノに対する好奇心がとても強いんです。ただ、自分の中で「なぜ好きなのか」がいま一つ、明確ではないようにも感じました。森の近くで育って、心が一番落ち着く場所が森なので、木で作られたピアノというものに、引かれていったんでしょうけれど。
自分は「何もない所」で育ってきたと本人は思っているので、ピアノが好きでも、それ以外のことは自信がありません。だからこそ「勉強しないとできない」「努力しないとできない」と考えるのではないでしょうか。
心の奥にある「芯」は強いと思います。責任感もありますね。
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