鉄道事業者にとって永遠の課題である「より安全でより安心な運行」を目指し、東京メトロは2016年4月、東京都江東区に「総合研修訓練センター」を新設した。実物そっくりの駅や線路を備えているのが最大の特長だが、研修・訓練の場とあって、一般の目に触れる機会はほとんどない。メトロが「安全・安心で快適なより良いサービスを提供するための始発駅」と位置付ける総合研修訓練センターはどのような施設なのか、詳しくリポートする。(時事ドットコム編集部 鴻上勲)
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南北に細長い総合研修訓練センターの中ほどに建つ5階建ての研修棟。入り口からエスカレーターで2階に上がると、「駅」が現れた。「ステップアップステーションセンター(SSC)」と名付けられ、自動券売機や自動改札機といった機器類の故障時の対応や接客対応訓練などを行う。機器類はすべて実機、つまり実際の駅に備わっているものと同じだが、それにとどまらず、案内板や床の点字ブロック、エスカレーター・エレベーターなども実物の駅と同じ仕様だ。訓練センターの中だから当然、乗降客はいない。しかし、それを不思議に感じてしまうほど本物同然の空間なのだ。
SSCでの各種訓練は、現場経験の少ない若手駅員を鍛える場でもある。自動改札機のなかった時代は駅員も多く、例えば接客対応で困った際、若手は先輩に助けを求めることもできたし、対応に不手際があった場合には直接指導を受けられた。しかし、自動改札機などの普及に伴って駅員が減り、若手が独力でトラブルに対処しなければならない事例も珍しくなくなった。そのため、SSCの訓練では、応援を要請してもすぐに助っ人は駆け付けず、なるべく助けを借りずに対応できるスキルを身に付けられるよう工夫しているという。
また、センターを新設した際に「想定外だった」という訓練も行っている。その一つが駅員に対する暴力行為への対応だ。暴行の被害に遭わないよう、例えば、切符売り場の壁を激しくたたく客がいれば、少し離れた小窓から客の様子を確かめてから応対する。すぐそばの小窓だと、顔を出した瞬間に危害を加えられてしまうリスクが高いのだとか。
SSCに入ると、「上野駅」と「落合駅」の案内板が見える。上野駅は銀座線と日比谷線の接続駅だが、両線の乗り換えには改札を2度通らなければならない。落合駅はJR線や東葉高速鉄道と相互直通運転を行っている東西線の駅だ。SSCは、両駅のように利用客への案内に工夫が必要な造りになっていて、自動券売機の上にある運賃表は東京メトロだけでなく、都営地下鉄、メトロに乗り入れる他社線との合算分も一緒に掲げられている。
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