「なんか契約とか派遣とかの人も切れなくなっちゃって、うちの会社もいろいろ大変らしいよ」-。2018年4月から本格適用となった有期雇用者の「無期転換ルール」に関し、ある会社員男性が言っていた話。男性が勤めている会社はそこそこ有名で、決して「ブラック」などではなく、掲げている「社会的使命」はむしろ高め。男性自体も良識的な人物だが、この発言に筆者は少し、尊大さを感じた。
13年4月1日に施行された改正労働契約法は、同じ職場で通算5年を超えて働いている有期雇用者が希望すれば、期間の定めがない無期の契約にできる「無期転換ルール」を定めた。対象となるのは同施行日以後に開始された契約で、5年がたった18年4月1日から順次、条件に該当する有期雇用者が「無期転換申し込み権」を得ている。
無期転換ルール導入のきっかけは、08年のリーマン・ショック後、「契約社員の雇い止め」「派遣切り」などが相次ぎ、雇用不安が社会問題化したこと。当時の厚生労働省の説明によると、有期雇用者は全国で約1200万人と推計され、そのうち約3割が通算5年を超えて契約を反復更新している状態。「いつ切られるか分からない」不安定な有期雇用者の働き方を変えるのが目的だった。
ただ当初は、「このルールによって、長い間勤めている労働者の失職が、かえって増えるのでは」という見方が強かった。企業側からすれば、無期の労働者が増えることで雇用調整が難しくなり、結果として経費増を招く恐れが大きい。有期労働者が無期転換の権利を得る直前、「解雇や契約更新の拒否などの雇い止めが急増し、大問題になる」ことが危惧されていた。
しかしその後、雇用情勢は大きく変化。ハローワークの求職者1人に何件の求人があるかを示す有効求人倍率は、09年平均が過去最悪の0.47倍だったのに対し、17年は1.50倍。1973年に次いで過去2番目に高い水準を記録した。日々の新聞やテレビ番組などでも、「失業」や「雇用不安」のニュースは影を潜め、「空前の売り手市場」「人手不足」といった言葉が躍っている。
「雇い止めなどは思ったよりもはるかに少なかった」と、厚労省労働関係法課の担当者。一部で個別の労働相談の増加なども報じられたが、人手不足の状況が続く中、「18年3月末は想定していたよりも無事に迎えられた」という。
ただ今後については、見えないことが多い。仮に冒頭の男性が言っていたように、「切れないから大変」というのが企業側の本音であれば、将来問題が表面化する可能性は高いだろう。企業は今後、これから増えるに違いない「無期契約社員」「無期パートタイマー」といった人たちを、組織の中でどのように位置づけ、どのように処遇していくつもりなのだろうか。
無期転換で何が起こるのか。いわゆる「働き方改革」にもつながるのか。専門家らの話を聞きながら展望した。(時事通信社編集局・沼野容子)
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