日本に本社を置く日系格安航空会社(LCC)が相次ぎ運航を開始した「LCC元年」から今年で5年になる。鉄道やバスに比べ敷居が高かった航空機の利用を身近にしたとの評価が聞かれる一方、極力コストを抑えて低運賃を生み出すシステムに、乗る側の「自己責任」も求められる。運航開始直後などは、航空機をフル稼働させる余裕のないダイヤが原因の「玉突き遅延」が相次ぎ、乗務員不足による大量欠航などのトラブルも発生した。
とはいえ、2000年代初頭以降、頭打ち状態となり、08年のリーマン・ショック以降は減少を続けていた国内線旅客数は16年度、過去最高を記録。拠点(ハブ)が置かれた成田、関西の両空港を含め、LCCが就航した国内空港の様子は5年で激変した。発着便が増え、それまで航空機に乗ったことがない人が利用したり、以前より頻繁に「空の旅」を選ぶ人が増えたりしている。
現在運航中の4社の代表にそれぞれ、各社の5年の歩みと今後の課題、日系LCCが「日本の空」に与えた影響について語ってもらった。第1回は「日系LCC1号」ピーチ・アビエーション(大阪府田尻町)の井上慎一最高経営責任者(CEO)と、同じANAグループのバニラ・エア(千葉県成田市)の五島勝也社長のインタビューをお送りする。
(2017年8月、時事通信 編集局編集委員・石井靖子)
「日本版LCC」のモデルを一から構築した井上CEOは、同社のイメージカラー「フーシャ(赤みがかった紫)」を意識した薄紫色の夏ジャケットを着て現れた。ノーネクタイだが、胸にはピンク色のポケットチーフ。インタビューを意識したわけではなく、いつもこうした服装だそうだ。
「LCCは空飛ぶ電車だ」を合言葉に12年3月運航を開始したピーチは、14年3月期で黒字を達成。以来4年連続で増収増益を維持し、日系LCCの中で唯一、良好な経営状態を維持している。
今回、在阪の井上氏取材のため、同社の成田―関西便を利用した。「若い人が多い」「外国人がかなり混じっていそうだ」と感じたが、最多搭乗者は何と「単身赴任のお父さん」。運航開始直後から17年2月までの約5年で368回の搭乗といい、5日に1回は乗った計算になる。このほか、「『遠距離恋愛』のために利用している」とか、韓国人客の「沖縄の美容院に行くのに使っている」という声も届いている。「今や『遠距離』も恋愛の障害にはならないということですよ」と、井上氏は笑う。
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