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憲法公布70年 よみがえった「幻の本」

父の声をもう一度

 1冊の古い本がある。『憲法と君たち』。版元は牧書店。1955(昭和30)年5月28日発行。定価180円。「学校図書館文庫」とあり、学校の図書館に置かれた叢書(そうしょ)の1冊だった。現在では国会図書館には保存されているが、入手困難な「幻の本」だ。

 著者は憲法学者の佐藤功(1915-2006)。日本国憲法の制定に関与した「憲法の生みの親」の1人だ。60年前のこの本の中で、佐藤は子どもたちに憲法の原理と精神をやさしく、語りかけるように解説している。

 憲法公布70年の今秋、この本が復刻出版された。『復刻新装版 憲法と君たち』(時事通信社刊)。気鋭の憲法学者、木村草太首都大学東京教授の詳しい解説が付いている。

 佐藤の長女、児童文学作家のさとうまきこさん(68)にとって、復刊は悲願だった。本が書かれたのはさとうさんが8歳の時。「中学校の頃、この本を読みましたが、学校の授業よりもずっとおもしろいと感じました」

 「この本が書かれた当時、テレビのある家は、まだ少なかったです。大相撲やプロ野球を見ようと、テレビの置かれた電器屋さんの前に、黒山の人だかりができたものです」「私達一家が住む東京の街にも、子どもが自由に遊べる原っぱや、雑木林がありました」「子どもも、おとなも明るい、より豊かな未来を信じて、生きていたような気がします」

 子どもの頃から憲法記念日がとても楽しみだった。父はラジオや新聞に出て、誇らしかったし、お土産を買ってきてくれた。佐藤家ではこどもの日より、憲法記念日の方が大きな意味のある祝日だった。

 憲法がまだ「新憲法」と呼ばれ、フレッシュに受け止められていたあの時代に書かれた父親の本を、なるべく元の形のままで今の世の中に出したいというのが、さとうさんの願いだった。

 衆議院で与党が、参議院でも改憲に前向きな勢力が、それぞれ3分の2を超え、憲法改正が現実味を帯びてきた今、もう一度、憲法の原点を説き起こすこの本を子どもや大人に読んでほしい。その願いが結実した「復刻新装版」は写真も挿絵も当時のまま刊行された。

 幼いさとうさんが父親のひざに乗っている古い写真が巻頭に出ている。

 「父の明るい、希望に満ちた声が、現代の子どもからおとなまで、おおぜいの人の心に響きますように、と願っています」

 【引用は『復刻新装版 憲法と君たち』の「復刻に寄せて」から】

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