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井山裕太、棋界を極めた男

26歳で囲碁界を制覇

 囲碁界初の7大タイトル同時制覇から一夜明け、笑顔でポーズを取る井山裕太7冠=東京都千代田区の日本棋院 【時事通信社】

 将棋の羽生善治さんが、名人、竜王など七つのタイトルすべてを手にしたのは1996年のこと。前人未到の偉業であり、社会的なニュースにもなった。それから20年後の2016年春、今度は囲碁の世界で井山裕太さんが七大タイトル(棋聖、名人、本因坊、天元、碁聖、十段、王座)すべてを獲得するという囲碁界初の快挙を成し遂げた。「天才少年」と言われ、順調に勝利を積み重ねて碁界の頂点を極めた井山七冠。その強さの秘密、これから目指していく究極の目標とは何か。

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 井山七冠は大阪府東大阪市出身。5歳で囲碁を覚え、6歳から石井邦生九段の指導を受けた。出演した囲碁の番組で、当時解説をしていた石井九段に才能を見出された。ここまでの棋士人生を振り返り、「何より大きかった出会い」だという。

 「囲碁でも将棋でも、師匠は普通、弟子には直接教えてくれないものだが、石井先生は違った。技術的なことはもちろん、精神的なこと、人としての心構えまで、多くの時間を割き、数え切れぬほどのものを教えていただいた」

 囲碁、将棋の世界で弟子を手取り足取り指導する師匠は少ない。入門する時とプロになれずに辞める時に打ってもらっただけ、などという話も聞く。いい、悪いは別にして、そういう世界なのだ。インターネットを使って千局以上打ってもらったという井山七冠は、大いに恵まれた棋士と言えるだろう。

 中学1年でプロ入りし、7大タイトルの一つ「名人」位を最年少記録となる20歳4カ月で獲得。13年に史上初の六冠、そして七冠に到達した。1カ月後、東京都千代田区の日本記者クラブで記者会見した際も、井山七冠は、「まだ信じられない。さらに精進し、囲碁界を少しでも盛り上げていきたい」と謙虚に話した。

 タイトル戦はそれぞれ年に一度。保持しているものをすべて防衛し、なおかつ足りないものを奪い取らなければいけない。いずれも、トップレベルの棋士との神経をすり減らすような七番勝負、あるいは五番勝負である。一つ終われば新たな挑戦者との戦いが待ち構えており、タイトルを失うまでそれが際限なく続く。七冠は例えようもなく困難な道のりのように思えるが、それを26歳で、さも当然のような顔をして達成した。羽生さんの七冠達成も26歳の時のこと。心技体ともに充実し、天賦の才を開かせるのに、二十歳代半ばは最も適した年齢なのかもしれない。

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