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シャルケの「鉱脈」を半世紀守り続けるレジェンド

「炭鉱」を通ってピッチへ

 シャルケのホームスタジアム、フェルティンス・アレーナ。試合前の選手たちはロッカールームを出ると、「トンネル」と呼ばれる地下の細く、暗い通路に並び、キックオフを待つ。選手同士の短い挨拶を交わし、気合いを入れ、鼓舞し合いながら集中を高める。ほどなくして、審判と共に階段を上がって、地上のピッチへと姿を現すと、満員のサポーターとまばゆい光に包まれている―。

 などという光景を、日本のファンもテレビ中継などで目にすることがあるだろう。スポーツ施設にありがちな健康的で機能的なスタジアムの雰囲気とはどこか違うこの通路の仕掛けには、長い歴史に基づく理由がある。我々がシャルケと呼ぶこのクラブの正式名称は、カタカナで表記してみると「フスバルクラブ・ゲルゼンキルヘン・シャルケヌルフィア・エーファウ」。1904年創設、ルール地方の都市ゲルゼンキルヘンを拠点とする総合スポーツクラブの、サッカー部門だ。

 第二次世界大戦後もしばらくこの地を支えた石炭産業とこのクラブは、創設当初から密接な関わりを持つ。今でもクラブに関わる人々を「ディ・クナッペン(炭鉱労働者たち)」という愛称で呼ぶほどだ。冒頭に記した選手入場に使われるトンネルは、炭鉱のレプリカ。実はかなり最近、2014年夏に改装されたばかりだ。関係者によると、長らくこの地を支えた石炭産業が廃れ、人口は減少したが、今でも自分たち(この街とこのクラブが)が労働者階級である炭鉱労働者の出身であることを忘れないようにと、この地域出身でない選手たちにも自覚を促すための装置だそうだ。

 この薄暗い通路は、対戦相手を不安に陥れ精神的に優位に立つ効果もある。ピッチに出る際に階段を上がるのは、下から這い上がるファイティングスピリットを持ち続けるためだ、と関係者は真顔で説明する。構造上、ファシリティ類がスタンドの下にあり階段を上ってピッチに出るスタジアムは少なくない。ファイティングスピリットの説明が後付けであることは容易にうかがえるが、それでもちょっとファンタジックな演出に、見ている側の気分も思わず高揚する。

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