『日本国語大辞典(日国)』は方言を多数収録していることも特徴の一つです。三省堂の辞書も方言を少し入れていますが、多くの人が方言とは気づいていない、いわゆる「気づかない方言」をいくつか載せているだけです。『日国』以外に方言を網羅的に入れている国語辞典はありません。私は『標準語引き 日本方言辞典』も作っているので、方言についても気になることが多いですね。
日本の場合、東西で言葉が大きく異なるのが特徴です。例えば「スコップ」と「シャベル」。東日本では大型で足を掛けて土砂を掘るようなものをスコップ、園芸で使うような小型のものをシャベルと言い、西日本では逆に大型のものをシャベル、小型のものをスコップと言うことが多いようです。「蚊に刺される」の「刺される」も、東日本では「くわれる」、西日本では「かまれる」と言うことが多い。「アホバカ分布」も有名ですね。
「谷」の音読みは「こく」です。訓読みは「たに」。では「渋谷(しぶや)」「市ヶ谷(いちがや)」という時の「や」は何でしょうか?これは音読みでも訓読みでもない江戸周辺の方言なのです。調査すると愛知、長野、新潟を境に、これより東の地方では「や」と読む地名や苗字が多い。西は「たに」です。大阪府立渋谷高校は「しぶたに」です。
こうした言葉の境界は、日本アルプスの辺りにあるようです。東西での味の嗜好の違いも、あの辺りが境界になっています。古くから旅で東西の行き来はあったかもしれませんが、血の交流は少なく、言葉の差異に現われている。それが21世紀の今も方言の形となって残っているのは面白いと思います。また、東北や北陸などに古い京言葉が方言となって残っている例もあります。これは北前船による交流の名残でしょう。言葉や文化の伝播を方言で知るのも楽しいですね。
マスメディアの発達で言葉が均質化され、方言が衰退の危機にあると伝えられたこともありましたが、最近では逆に方言を楽しむ人が増えているように思います。
「がっつり食べる」と言いますが、「がっつり」には北海道起源説と九州起源説があります。九州・沖縄では「がっつり千円あった」のように「ちょうど」の意、「がっつり似ている」のような「実に」の意に使われていますが、昨今の全国区での使われ方とはちょっと違うようです。
若い人たちには方言が新鮮に感じられるようで、ツイッターやブログで意図的に方言を使う人も多いですね。私は、こうした方言を楽しむ傾向を好ましく感じています。
新方言などと呼ばれる新しい方言もあります。「横入り(よこはいり)」などがそうですね。横から割り込むことを言うのですが、どうやら神奈川など東海道沿線の若い層から広まった言葉のようです。これがNHK大河ドラマ「黒田官兵衛」のせりふに出てきたのにはびっくりしました(笑)。千葉県北西部出身の私は「ずるこみ」と言っていました。
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