辞書によって言葉の解説(語釈)が違うことを比べるのも面白いと思います。語釈は、簡単な言葉ほど表現が難しくなります。よい例が「右」という言葉でしょう。
かつては「箸を持つ手のほう」などという表現もあったようですが、それでは左利きの人には誤った説明になります。現在では「この辞典の偶数ページのある側」とか「アナログ時計の1時から5時までのほう」など、工夫を凝らした表現が増えています。語釈で他の辞書との違いを出そうと努力しているのですね。
どの辞書にも共通する最大の難点があります。それは「読めない言葉は引けない」ということです。
あるとき、読者から編集部に「辞書に『雰囲気』が載っていない」という電話がありました。そんなはずはないので、そうお答えしようとしたら「あっ、ありました」と電話が切れたのです。その方は「ふいんき」で辞書を引こうとしていたのだと思います。
辞書を引くとき同じような経験をした方は多いのではないでしょうか。「一段落」を「ひとだんらく」で引く、「寂しい」を「さみしい」で引く、「舌鼓」を「したづつみ」で引く―。漢数字の読み、清音か濁音かなど、読み方に悩む言葉は数多くあります。デジタル辞書であれば漢字を打ち込めばその項目に行き着くので、使い勝手はよくなります。ただ「間違えて引くことで正しい読みを覚える」ということができなくなるため、結局正しい読みが身に付かないままで終わるおそれはあると思います。
紙の辞書であれデジタル辞書であれ一番困るのは、どう読むのか見当もつかない難読語でしょう。
そこで私は、2006年に『ウソ読みで引ける難読語辞典』という辞書を作ってみました。間違った読み方を想定した「ウソ読み索引」で、目指す言葉の正しい読み方がすぐにわかる辞典です。
見出しの「ウソ読み」の収集はそれほど大変ではありませんでした。東京と関西の5大学の先生にお願いしてゼミの学生数十人に協力してもらい、難読語の読みを書いてもらいました。見出しにする読み間違いがふんだんに集まりました(笑)。
読み間違いを約3000語集めて、その語の意味や使い方、語源などをまとめたのですが、これはなかなか評判のよい辞書になりました。
新着
会員限定