看護師や薬剤師、助産師…。医療界はもともと女性が多い職場だが、医師となると話は別。圧倒的に「男性社会」だった。それが近年は様変わりし、2000年以降は毎年、医師国家試験合格者の約3分の1を女性が占めるようになっている。
これに伴い、妊娠・出産といった女性特有のライフイベントによるキャリアの中断・断絶と、それによる医師不足が社会問題として浮上してきた。女性が医師として働くこととは。時代をたどりつつ考えてみた。
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「昔から女性も全く同じ仕事をしており、性差はなかった」。こう振り返るのは、日本医師会で男女共同参画を担当する笠井英夫理事。医師という専門職において、「男女平等」は早くから実現されていたようだ。
しかし、女性医師がまだ珍しかった時代には、人並み以上の能力・努力を発揮してきた“スーパーウーマン”が少なくない。
横浜市でクリニックを営む大竹輝子さん(88)もその一人。産婦人科医として働きながら、一人息子を育て、夫の世話をした。「今は女性も働くことが当たり前になっているが、当時、女性が仕事を持つということは人の3倍働かなくては駄目だと思っていた」と振り返る。
「職業婦人」を志す人は周りにほとんどいない女学校時代、医者になる意思は固かった。東京女子医学専門学校(現東京女子医科大学)に在学中の1945年、空襲で自宅を焼失。青森県に疎開していた家族に頼らず、夜間警備の仕事を見つけて学費と生活費を稼ぎながら卒業した。そうした意思の強さと培った体力が、今も財産となっている。
開業後は座って食事をする時間もなく、パンを立ち食い。あっという間に夜の11時になっているような日々だった。「風邪をひいている暇もないから、ひいたことがない」と笑う。
根っからの仕事の虫。出産後1年は休むつもりだったが、「いてもたってもいられず」乳児を背負って職場復帰。60歳のときにさすがに体力を考えて24時間体制の分娩(ぶんべん)をやめたところ、手持ちぶさたになったからと、昔からやりたかった絵と書を開始。本も数冊出版した。
苦労も多かったはずだが、女性であってマイナスだったことは「あまりない」。逆に、「婦人科だと『女性がいい』とわざわざ探して患者さんが来てくれる」と、女医であることのやりがいを生き生きと語った。
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