私は市長となってからの3年間、待機児童の解消に力を注いできました。市長に就任した年の2012年4月は、待機児童が147人でした。同年は既存施設の増改築等により、保育所への入所定員を230人増やしましたが、想定した以上に潜在的な保育需要が多く、13年4月で146人の待機児童が依然として存在しました。そこで、保育園の新設等を進め、15年度までの3年間で、民間保育園17園の新設、増改築3園、公立保育園17園、地域型保育6カ所、合計1553人の保育定員数を増やした結果、このたびの「ゼロ」達成となりました。
「待機児童ゼロ」を目指した背景には、私自身の体験と、日本の将来に対する危機感があります。私は、市長になる前は、弁護士として働いていましたが、子どもを持つ同僚の女性弁護士が、保育所探しなどで大変苦労していました。一方で、出産後に仕事を辞めた女性の友人が、再度、仕事を探すのに苦労する姿も見てきました。そして、私自身は、このような状況を見ていると、働きながら子どもを持つという選択ができませんでした。
日本では、まだまだ、女性が二者択一を迫られています。子どもを持たず、仕事を続けるか、子どもを持って仕事を辞めるか。そして、この二者択一が、日本の人口減少と働き手の喪失という結果を招いています。このような状況をなくしたいというのが、私が市長になって待機児童の解消を目指してきた理由です。
大津市では、今年4月に「待機児童ゼロ」となったばかりですが、これまでの3年間、待機児童解消とともに、児童クラブの時間延長や病児保育など、さまざまな子育て施策の充実を図ってきたことの効果が表れてきています。まず、大津市の合計特殊出生率は、09年度は1.31で、全国平均の1.37よりも低い値でしたが、13年度には全国平均1.43に対して1.48となり、09年度から0.17の上昇となっています。
また、フルタイムで働く女性の割合が、09年度から14年度にかけて、約30%増加しました。特に、5歳までの子どもを持つ20代から40代の女性のうちフルタイムで働く女性については、同じ期間に約50%増加しました。つまり、幼い子どもを持って働く女性が大幅に増えたのです。
このように、「待機児童ゼロ」は、女性の二者択一をなくすための第一歩です。これからさらに、市民の皆さまの声とさまざまなデータ分析に基づき、女性も男性も子育てと仕事が両立できるまちづくりを進めていきます。
越 直美(こし・なおみ)氏のプロフィル
1975年生まれ。2000年北海道大学法学部卒業、01年同大学大学院法学研究科修士課程修了。02年からM&Aを専門とする弁護士として西村あさひ法律事務所で勤務。09年ハーバード大学ロースクールを修了し、ニューヨークの法律事務所に勤務した後、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所・客員研究員。12年1月、最年少女性市長(当時36歳)として大津市長に就任。待機児童解消等の子育て施策を推進するとともに、いじめ問題を契機として、いじめ対策や教育委員会改革に取り組んでいる。
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