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市川團十郎さんからの伝言

歌舞伎と日本文化

――歌舞伎座での團十郎襲名興行は3カ月間続き、襲名披露は米国でも行われた。2007年にはパリ・オペラ座でも公演した團十郎さんは、国際的な視点からも歌舞伎と日本文化を見詰めてきた。

 日本の文化の中には謙遜の美徳というものがある。それを根本に売らなくちゃいけないんだと思います。日本人が思っている以上に、世界は日本の文化のフィロソフィー(哲学)に何かを感じている。世界に広まった日本のすし文化は、江戸時代の市民が考えた食事ですよね。漫画も江戸時代の黄表紙が根本にある。日本の国土の周りにシェールガスという天然資源が埋もれていると言われていますが、日本の文化も地下資源をいっぱい持っているんですよ。

 海老蔵がやらせていただく映画「利休にたずねよ」(2013年12月公開予定)に私も千利休の師匠の武野紹鴎(たけのじょうおう)役で出ますが、例えば、西洋の人はダイヤモンドのようなキラキラ輝くものに値打ちを感じているのに対して、日本の茶道のわび・さびの世界では、単なる土くれを火で燃やして、表面がガラス状になって、いびつになっているような所に美しさを感じる。秋の紅葉は日本人にとっては生きているけれども、ヨーロッパの人は枯れて死んでいると感じる。そういう日本人の感性を一つの資源としてアピールする必要があると思っています。

――歌舞伎にはそのヒントがあると、團十郎さんは感じているという。

 ヨーロッパには騎士道というものがありますが、歌舞伎の中でも武士道というものが描かれている。そういうものと人間としての生き方、文化というものを歌舞伎を通して外国の方々にもアピールしたい。

 「将軍江戸を去る」という芝居で山岡鉄太郎は、「経済の実力なきところに、権力は存在しない」と言いますが、経済というものの基は文化ですよ。人間が人間らしく生きるつてを作ったことによって、経済が生まれているわけですから。それを我々はもう一回考え直す時期です。そう考えていらっしゃる方がいるから、歌舞伎をご覧になる方が増えているのではないでしょうか。

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